呼気延長呼吸がリスクのある決断に与える影響は?

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゆっくりした呼吸方が脳に与える影響.jpg
Neuron誌に2026年5月28日付でウェブ掲載された、
ゆっくりと息を吐く呼吸法の意外な心理的効果についての論文です。

ゆっくりと時間を掛けた深呼吸、
特に息を吸う時間より、
吐く時間を長く取るような呼吸に、
気持ちを落ち着かせるような効果のあることは、
一般にも広く知られている事実です。

色々な呼吸法があり、
宗教的な訓練法から始まって、
アレンジされたものもありますが、
一番ポピュラーなのは、
息を吸っている時間の倍以上の時間を掛けて、
ゆっくりと息を吐くというもので、
これを呼気延長呼吸と呼んでいます。

呼吸法は自律神経の働きと、
関連が深いことが分かっていて、
呼気延長呼吸は、
副交感神経の働きを強め、
相対的に交感神経の働きを抑える、
という知見が多く報告されています。

自律神経には交感神経と副交感神経とがあり、
交感神経の緊張は脈拍や血圧の上昇に繋がり、
副交感神経の活動が高まると、
脈拍の変動が大きくなって、
身体はリラックスした状態となります。

心臓の自律神経のバランスは呼吸と連動していて、
息を吸い込む吸気では、
主に交感神経が優位となって脈拍が増加し、
息を吐く呼気では、
逆に副交感神経が優位となって脈拍はゆっくりとなります。

自律神経の状態は、
人間の行動の選択に影響を与えます。

生理学的検証では、
交感神経が優位な状態では、
緊張と不安が強くなり、
損失の危険を伴うような選択は、
回避する傾向が強まり、
逆に副交感神経が優位な状態では、
「気が大きく」なり、
リスクがあっても、
利益を最大化するような選択、
つまりギャンブル的な思考が強まる、
という知見が得られています。

何となく、
リラックスしていれば冷静に判断してリスクは冒さず、
興奮していれば、
リスクを度外視してギャンブルに走りそうですが、
実際にはそうではないのです。

それでは、
呼吸などを調整することで、
身体を強制的に副交感神経優位な状態にすると、
そうでない場合と比較して、
リスクを伴うような行動の選択は、
変化するものなのでしょうか?

今回の研究は呼気延長呼吸を利用することで、
人間の決断にどのような変化がもたらされるのかを検証しているものです。

健康な若年成人(平均年齢24.78歳)41名を対象として、
コインの裏表を予測するような、
ギャンブル的な課題を与えます。
当たる確率は50%で、
当たると報奨金が与えられ、
外れると逆にお金を取られます。

そうした課題を通常の呼吸状態で施行することと、
2秒で息を吸い、8秒掛けて息を吐くという、
呼気延長呼吸を施行しつつ行った場合とで、
その決断を比較すると共に、
自律神経の状態と脳の活性化部位を、
機能性MRI検査や心拍、発汗などの自律神経機能のモニタリングで検証しました。

その結果、
呼気延長呼吸を行うことで、
交感神経機能は変化しないままで、
副交感神経の活動が高まり、
その副交感神経の活動が高いほど、
決断において報酬を得ることへの感受性が高まり、
損失のリスクより、
報酬を得る可能性のあることを優先するような、
つまりギャンブル的判断をする傾向のあることが確認されました。

この時、
脳の報酬価値の判定に関わる部位である、
腹側正中前頭前野と呼ばれる部位と、
帯状回後部と呼ばれる部位の神経活動が高まっていることも、
機能性MRIの解析で確認されました。

つまり、
リスクを伴う決断をするという、
非常に高度の脳の働きとされている行為が、
実は自律神経機能のような、
身体状況によって強い影響を受けていて、
自律神経の外的調節によって、
その行動が変わり得る、
ということがかなり明確に示されたのです。

人間はその人生において、
多くのリスクを伴う決断をしていて、
それは人間の高い知性や人間性に関わるものであると、
一般にはそう考えられていますが、
呼吸法を変えるだけでその決断が変わる可能性があるという、
今回の生理学的知見は、
その常識に大きな懐疑を与えるもののように、
個人的には思いました。

身体と脳との関係というのは、
一筋縄ではいかないものであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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