「急に具合が悪くなる」(2026年濱口竜介監督映画版)
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

同題の哲学者と人類学者の往復書簡の書籍化に想を得た、
濱口竜介監督の新作が今ロードショー公開されています。
濱口監督の映画はいつも一筋縄ではいきませんが、
今回も原作の中で活かされているのは、
同年齢の女性2人が偶然に運命的な出逢いをして、
その一方は進行癌で「急に具合が悪くなる」と宣告された状態でありながら、
精力的に仕事を続けており、
癌の女性の死に至るまで、
その2人が魂の対話を繰り返す、
という設定の大枠の部分のみで、
2人の女性の設定や対話の内容を含めて、
それ以外の部分は原作とは全く別物です。
原作は映画を観てから読んだのですが、
これは僕は映画を観なければ、
絶対に手に取らなかったタイプの本でした。
ただ、読んで良かったと思いました。
大学時代に哲学書など読んで、
ああだこうだと考えていた頃のことを、
甘酸っぱく思い出すような感じがあって、
素朴に胸が熱くなるような思いがしました。
映画を先に観た時には、
映画で2人のヒロインが繰り広げる長い対話が、
原作を反映したものではないかと思ったのですが、
実際には殆どというか、全く、
そうしたことはなくて、
映画は映画でオリジナルの対話が、
全くオリジナルの2人の主人公によって、
繰り広げられるのです。
その点をどう考えるかが、
この映画を評価する上での、
1つの問題ではあるように思います。
「ドライブ・マイ・カー」も、
とても村上春樹さんの原作とは、
かけ離れた感じのある映画でしたから、
これはもう純粋な濱口監督作品として、
考えるべきなのかも知れません。
その観点から見ると、
ある意味これまでの濱口映画の総決算という感じのある、
大胆不敵で力のこもった大作であることは間違いがありません。
映画の多くの部分はフランスで撮影されているのですが、
本当に何の違和感もなく現代のフランス映画となっているのが、
凄いと思いますし、
それでいてフィクションとノンフィクションの狭間を切り取るような、
濱口監督のスタイルはしっかり捉えられるいるのがさすがです。
これまでに大島渚監督や、是枝裕和監督など、
日本の監督がフランスでフランス人キャストを使って撮られた作品はありましたが、
何処かもっとよそ行きの感じで、
監督の個性が活かされているとは言い難かったのですが、
今回の映画は純然たるフランス映画になっていて、
それでいて濱口監督の作家性は、
全く損なわれていない、
という点が素晴らしいのです。
196分という上演時間はちょっと尻込みするような長さですが、
全体はゆったりとした、
それでいて小気味よいリズムが通底していて、
この長さで当然という風格があり、
退屈することなく観終わることが出来ました。
フランス語と日本語とが混じり合った台詞が延々と続く、
というのも、
これはありそうでこれまでにはなかった場面だと思うのですが、
相当の苦労が撮影にあったことは、
裏話の報道などで漏れ聞こえてきますが、
その苦労のかいがあったというのか、
さりげなく見えて、
これはもう映画史に残る画期的なシークエンスであったと思います。
こういう場面を成立させてしまうのが、
濱口監督のある種変態映画マニア的凄さです。
演劇を作品の中に取り入れるのは、
濱口監督の1つの特徴で、
正直提示された演劇像は、
小劇場マニアの立場からは、
「演劇ってこんなんじゃないけどなあ」
という思いはあるのですが、
今回の作品にある「ハプニング演劇」というのは、
欧米人にはとても受け入れられやすいスタイルのもので、
その辺りが濱口監督作品が、
欧米で受け入れられやすい、
1つの原因でもあるように思いました。
キャストはいずれも好演で、
主役2人のカンヌの女優賞も当然ですが、
個人的には長塚京三さんの演技が忘れ難くて、
素晴らしかったと思います。
長塚さんは、
この作品と「敵」の演技で、
彼にとっての代表作を残した、
という感じがします。
年齢を重ねての俳優の凄みには、
勇気づけられる思いがしました。
ある意味「急に具合が悪くなる」の原作のテーマを、
長塚さんの肉体が、
体現しているような思いもありました。
そんな訳で、
変態映画マニア(誉め言葉です)濱口監督にして成し得た、
これまでに存在しなかったタイプの映画で、
映画ファンであれば、
これはもう必見と言って良い作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
同題の哲学者と人類学者の往復書簡の書籍化に想を得た、
濱口竜介監督の新作が今ロードショー公開されています。
濱口監督の映画はいつも一筋縄ではいきませんが、
今回も原作の中で活かされているのは、
同年齢の女性2人が偶然に運命的な出逢いをして、
その一方は進行癌で「急に具合が悪くなる」と宣告された状態でありながら、
精力的に仕事を続けており、
癌の女性の死に至るまで、
その2人が魂の対話を繰り返す、
という設定の大枠の部分のみで、
2人の女性の設定や対話の内容を含めて、
それ以外の部分は原作とは全く別物です。
原作は映画を観てから読んだのですが、
これは僕は映画を観なければ、
絶対に手に取らなかったタイプの本でした。
ただ、読んで良かったと思いました。
大学時代に哲学書など読んで、
ああだこうだと考えていた頃のことを、
甘酸っぱく思い出すような感じがあって、
素朴に胸が熱くなるような思いがしました。
映画を先に観た時には、
映画で2人のヒロインが繰り広げる長い対話が、
原作を反映したものではないかと思ったのですが、
実際には殆どというか、全く、
そうしたことはなくて、
映画は映画でオリジナルの対話が、
全くオリジナルの2人の主人公によって、
繰り広げられるのです。
その点をどう考えるかが、
この映画を評価する上での、
1つの問題ではあるように思います。
「ドライブ・マイ・カー」も、
とても村上春樹さんの原作とは、
かけ離れた感じのある映画でしたから、
これはもう純粋な濱口監督作品として、
考えるべきなのかも知れません。
その観点から見ると、
ある意味これまでの濱口映画の総決算という感じのある、
大胆不敵で力のこもった大作であることは間違いがありません。
映画の多くの部分はフランスで撮影されているのですが、
本当に何の違和感もなく現代のフランス映画となっているのが、
凄いと思いますし、
それでいてフィクションとノンフィクションの狭間を切り取るような、
濱口監督のスタイルはしっかり捉えられるいるのがさすがです。
これまでに大島渚監督や、是枝裕和監督など、
日本の監督がフランスでフランス人キャストを使って撮られた作品はありましたが、
何処かもっとよそ行きの感じで、
監督の個性が活かされているとは言い難かったのですが、
今回の映画は純然たるフランス映画になっていて、
それでいて濱口監督の作家性は、
全く損なわれていない、
という点が素晴らしいのです。
196分という上演時間はちょっと尻込みするような長さですが、
全体はゆったりとした、
それでいて小気味よいリズムが通底していて、
この長さで当然という風格があり、
退屈することなく観終わることが出来ました。
フランス語と日本語とが混じり合った台詞が延々と続く、
というのも、
これはありそうでこれまでにはなかった場面だと思うのですが、
相当の苦労が撮影にあったことは、
裏話の報道などで漏れ聞こえてきますが、
その苦労のかいがあったというのか、
さりげなく見えて、
これはもう映画史に残る画期的なシークエンスであったと思います。
こういう場面を成立させてしまうのが、
濱口監督のある種変態映画マニア的凄さです。
演劇を作品の中に取り入れるのは、
濱口監督の1つの特徴で、
正直提示された演劇像は、
小劇場マニアの立場からは、
「演劇ってこんなんじゃないけどなあ」
という思いはあるのですが、
今回の作品にある「ハプニング演劇」というのは、
欧米人にはとても受け入れられやすいスタイルのもので、
その辺りが濱口監督作品が、
欧米で受け入れられやすい、
1つの原因でもあるように思いました。
キャストはいずれも好演で、
主役2人のカンヌの女優賞も当然ですが、
個人的には長塚京三さんの演技が忘れ難くて、
素晴らしかったと思います。
長塚さんは、
この作品と「敵」の演技で、
彼にとっての代表作を残した、
という感じがします。
年齢を重ねての俳優の凄みには、
勇気づけられる思いがしました。
ある意味「急に具合が悪くなる」の原作のテーマを、
長塚さんの肉体が、
体現しているような思いもありました。
そんな訳で、
変態映画マニア(誉め言葉です)濱口監督にして成し得た、
これまでに存在しなかったタイプの映画で、
映画ファンであれば、
これはもう必見と言って良い作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
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