ケムリ研究室no.5「サボテンの微笑み」

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
サボテンの微笑み.jpg
ケラさんと緒川たまきさんによる企画公演、
ケムリ研究所の新作公演「サボテンの微笑み」が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。

ケラさんは本当に幅広い劇作を長年に渡り発表されていて、
コメディもあればシリアスもあり、
アングラもあれば大衆演劇もあるという感じで、
唯一の共通項は「とても長い」ということのみ、
と言っても良いくらいですが、
その中でも今回の「サボテンの微笑み」は、
ケラさんの創作の間違いなく最高ランクに属するもので、
その円熟した味わいは、
テネシー・ウィリアムスやアントン・チェホフの代表作に、
匹敵すると言って大袈裟ではありません。

長さはいつも通りで、
前半1時間45分、20分の休憩を挟んで、
後半1時間10分ですから、
まあ想定内というか、
意外に後半は短いのね、
というくらいの感じです。

今回の作品は大正時代くらいに設定された、
擬古典という感じのスタイルの作品で、
キャストは7人と比較的少なく、
1つの屋敷を舞台として濃密な人間ドラマが展開されます。

こうしたスタイルの作品も、
ケラさんには昔からあるのですが、
以前のものは海外を舞台にした、
割とポップな仕上がりのものが多く、
劇場もコクーンなど中劇場クラスで上演されることが多かったので、
ちょっと演出と内容とに、
乖離を感じることが多かったのが正直な感想でした。

それが最近は比較的日本を舞台にすることが多くなり、
特に緒川たまきさんがヒロインに座ったものは、
緒川さんの演技の情感が、
日本家屋にピッタリフィットする感じなので、
狙いとしている濃密な人間ドラマが、
より自然に受け止められるようになった、
というところがあるかと思います。

ウディ・アレンの映画を翻案した「キネマと恋人」は、
緒川さんの代表作と言って良い傑作でした。

今回の「サボテンの微笑み」は、
「キネマと恋人」よりシリアスな、
テネシー・ウィリアムスやアーサー・ミラーなどに代表される、
濃密な家庭劇のスタイルを取っていて、
前半を観終わった時点では、
「ガラスの動物園」辺りを彷彿とさせます。
当然そうした悲劇が起こるのだろうなと、
息を詰めて後半を見守ることになるのですが、
確かにそうした展開が予想通りになりつつも、
更にそこを通り抜けてドラマは展開し、
マジックリアリズム的雰囲気も取り込みつつ、
ラストはチェホフ的な静謐な世界に見事に着地しています。

ケラさんがこれまで演劇に捧げてきた、
エネルギーの全てが凝縮されたような、
素晴らしい濃密な世界でした。

家という呪いに縛られて、
身動きが出来なくなったまま、
もう人生の後半戦に差し掛かった、
哀しい兄と妹の物語ですが、
この世代の役者さんを主役に据えて、
等身大の切実なドラマを成立させているという点が、
何よりも素晴らしく、
ラストに至ってこの2人の姿が、
観客の心に強く刻まれて離れません。

この作品で特筆するべきは演技陣で、
主役の兄と妹を、
美しく哀れに、滑稽かつ無残に、
切なくかつ静謐に、
時にエネルギッシュかつ暴力的に演じた、
赤堀雅秋さんと緒川たまきさんのお2人が、
ともかく素晴らしく、
お世辞抜きに国宝級の演技で、
本当に演劇の演技の素晴らしさに酔いしれることが出来ました。

赤堀さんのお芝居は、
間違いなくこれまでで最高の演技と言って、
過言ではないもので、
その無残な切なさに、
心を強く揺さぶられました。
緒川たまきさんは、
「キネマと恋人」が最高だったので、
緒川さんのベストとは言えないのですが、
肉薄するような凄い芝居であったことは間違いがなく、
何より、このお芝居のこの役は、
今の赤堀さんと緒川さんにしか実現出来ない、
という点が素晴らしいと思います。

これは演劇というものの、
生身の藝術であるが故の素晴らしさでもあり、
一方で悲しさでもありますよね。

今回を逃したら同じお芝居が実現することは絶対にないし、
戯曲も勿論傑作ではあるのですが、
それが唯一無二の傑作であるのは、
今のこのの2人が演じるから、
と言って間違いがないのです。

他の5人のキャストもそれぞれに素晴らしく、
その役柄を過不足なく演じていました。
最低男を演じた瀬戸康史さんは、
ちょっと損な役回りなのですが、
それを承知の上で、
やりきった感が素晴らしかったと思います。
その色悪の感じは、
瀬戸さんにしか出せないものですし、
それが悲劇を引き立てるのは、
「ガラスの動物園」でも同様なのです。

鈴木慶一さんはテネシー・ウィリアムス的世界の中に、
家に住みつく幽霊という、
マルケス的マジックリアリズムの風を吹き入れる役回りで、
作品に独特の奥行を与えていました。

流行作家を演じた萩原聖人さんも、
いぶし銀の演技で、
人間ドラマの説得力の要となっていました。
瀬戸さおりさんの魅力が十全に引き出されているのは、
ケラさんのマジックがさく裂している感じですし、
ナイロン的悪党を演じた清水伸さんは、
そこだけはナンセンスの香りに満ちていました。

今回の作品の特徴は、
全くナレーションやト書きの投影などがなく、
プロジェクションマッピングの演出もないことで、
そのため純粋な台詞劇として鑑賞することが出来ました。

いずれにしてもケラさんとして円熟期の屈指の傑作で、
完成度が高く、感動的で、
主役お2人の演技が抜群に素晴らしいので、
演劇のお好きな方には、
何をおいても劇場に駆け付けて頂きたいと思います。

絶対面白いよ。

必見です。

長い前半で寝落ちするととても残念で、
後で後悔されると思うので、
睡眠はしっかり取って、
体調は整えて劇場に足をお運び下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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