抗けいれん剤によるアミロイドβ蓄積抑制効果

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イーケプラのアミロイドβ産生抑制効果.jpg
Science Translational Medicine誌に、
2026年2月11日付で掲載された、
アルツハイマー病の原因と、
その根本的治療に繋がる可能性のある、
薬剤の有効性についての論文です。

これはかなり画期的な知見で、
認知症治療の新たな可能性を感じさせるものです。

アルツハイマー病においては、
アミロイドβ、
特に折り畳み異常を伴う変異したアミロイドβ
(アミロイドβ42)が、
脳に蓄積することが特徴的所見として確認されています。

ただ、このアミロイドβ42が、
そもそも何処で産生され、
何処からその蓄積が始まるのかという点については、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

近年その産生部位が、
神経の末端にあって神経伝達物質などを貯蔵している、
シナプス小胞にあるのではないか、
という知見が注目されるようになりました。
ただ、その詳細なメカニズムは不明です。

レベチラセタム(商品名イーケプラなど)は、
他剤の無効事例などに使用される抗けいれん剤ですが、
アミロイドβの産生部位と想定される、
シナプス小胞のSV2Aという蛋白質に結合する性質があり、
その機能を抑制することにより、
アミロイドβ自体の産生を抑制する働きがあるのではないかとして、
近年注目されています。

実際動物実験のレベルでは、
脳の前シナプスという部位で、
シナプス小胞からアミロイドβが過剰に産生されるメカニズムを、
強く抑制することが確認されています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8256815/

ただ、臨床的にはその有効性はまだ不明瞭です。
たとえば2021年のJAMA誌に発表された論文では、
34名のアルツハイマー病の患者に、
この薬剤を使用した場合と使用しない場合とを比較した試験において、
トータルには明確な差は認められませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34570177/

そこで今回の研究では、
アルツハイマー病のモデル動物のネズミを用いて、
アミロイドβ42がどのように産生されるかをまず検証しています。
その結果、神経伝達物質が貯蔵されているシナプス小胞の内部において、
アミロイドの前駆物質であるAPPから、
アミロイドβ42が生成され蓄積。
それがシナプスから放出されて蓄積すると共に、
シナプス小胞内で蓄積することで、
正常なシナプスの機能を阻害してしまう、
というアルツハイマー病の、
おそらくは本質的メカニズムと思われるものが確認されました。

次にiPS細胞から生成されたヒト神経細胞を用いた実験により、
抗けいれん剤のレベチラセタムが、
シナプス小胞上にあるタンパク質SV2Aに結合することにより、
アミロイドの前駆タンパクAPPが、
小胞体に入ることをブロックし、
結果として小胞体内での、
アミロイドβ42の産生を抑制する作用が確認されました。
更にはダウン症の患者さんは、
高率にアミロイドβ42の蓄積が生じることから、
死亡したダウン症の患者の脳組織での検証においても、
シナプス小胞内のでアミロイドβ42の産生が、
異常タンパクの蓄積に繋がっていることが確認されました。

最後にこれまでのアルツハイマー病の患者の登録データを活用して、
レベチラセタムを使用した472名と、
使用しなかった634名を比較したところ、
薬剤使用群で若干のアルツハイマー病の進行遅延効果が認められました。

このように、
今回の詳細な研究の結果により、
これまで明確ではなかった、
アルツハイマー病の発症メカニズムが明らかになり、
従来から使用されている抗けいれん剤に、
その根本原因を正常化する効果が示されたことは、
画期的な知見だと思います。

ただ、基礎実験のデータは間違いのないものとして、
実際に通常量でレベチラセタムを使用したデータにおいては、
今までのところそこまで明確な改善効果や、
アルツハイマー病の予防効果は確認されておらず
(今回の研究でも臨床データは添え物的なものです)、
実際臨床試験は複数進められているようですが、
今後臨床的にこの薬剤が有効であるのかについての、
より具体的な検証が急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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