プロトンポンプ阻害剤による呼吸器疾患への悪影響について(2026年ベルギーの疫学データ)

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIのCOPDや喘息リスク.jpg
Chest誌に2026年1月16日付でウェブ掲載された、
胃酸を抑える薬剤の呼吸器疾患への影響についての論文です。

胃食道逆流症(GERD)は、
様々な要因より、胃酸が胃から食道に逆流することにより、
胸やけや胸の痛みなどの不快な症状が継続する病気です。

胃食道逆流症は食生活の乱れや肥満、
食後すぐに横になるような生活習慣によって、
誘発される部分があり、
そのため生活改善が第一選択の治療となり、
それで症状が改善しない場合には、
胃酸の分泌を抑えるような薬を使用することになります。

その場合に使用される薬の代表が、
プロトンポンプ阻害剤です。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
従来の胃酸抑制剤と比較して、
効果が強力で安定しているという特徴があります。
ただ、その長期使用により、
幾つかの副作用や有害事象が報告されています。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
骨粗鬆症のリスクの増加などが確認されています。

従って、プロトンポンプ阻害剤を継続的に使用する場合には、
そうした副作用や有害事象に留意しつつ、
その必要性を慎重に検討する必要があるのです。

さて、胃食道逆流症においては、
胃酸が咽喉を刺激することにより、
慢性の咳や呼吸器症状が併発することがあります。
そして、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など、
慢性の呼吸器疾患を持つ患者さんでは、
その症状の悪化に繋がり易いという指摘があります。

この観点からは、
そうした呼吸器疾患の患者さんに、
胃食道逆流症が認められた場合には、
速やかに治療を行う必要があると考えられます。

そのため、喘息やCOPDの患者さんで、
胃食道逆流症を疑わせる症状が続いた時には、
症状からの診断でプロトンポンプ阻害剤が開始される、
というようなケースも、
実際の臨床では多いように思います。

しかし、こうしたプロトンポンプ阻害剤の使用は、
本当に呼吸器疾患の患者さんに、
良い影響を与えているのでしょうか?

今回の研究はベルギーにおいて、
健康保険の診療報酬請求のデータを活用することで、
この問題の検証を行っているものです。

2017年から2022年に閉塞性気道疾患(これは気管支喘息とCOPDの総称です)
で治療を継続している、
トータル932135名の患者さんを対象として、
処方データを解析したところ、
そのうちの44.6%に当たる416087名が、
プロトンポンプ阻害剤を継続的に使用していました。

ここでプロトンポンプ阻害剤の使用者は、
使用していない患者さんと比較して、
呼吸器疾患の急性増悪のリスクが、
1.18倍(95%CI:1.17から1.19)有意に増加していました。

これを前年のプロトンポンプ阻害剤の使用量で比較すると、
前年の使用量が1か月に満たない場合は、
増悪リスクは1.09倍(95%CI:1.07から1.10)であったのに対して、
前年の使用量が365日以上と1年以上継続していた場合には、
増悪リスクは1.24倍(95%CI:1.23から1.26)と、
よりリスクは高くなっていました。

このように、今回の大規模な検証では、
喘息やCOPDの患者さんに、
長期間プロトンポンプ阻害剤を使用していると、
急性増悪のリスクが高まるという結果が得られました。

これは診療報酬データのみからの解析なので、
個々の患者さんについて確認されたものではない、
という点には注意が必要ですが、
特にプロトンポンプ阻害剤の使用の必要性が、
明確ではないようなケースでは、
呼吸器疾患の患者さんに対する使用は、
今後より慎重に考える必要がありそうです。

仮にプロトンポンプ阻害剤が、
呼吸器疾患の急性増悪のリスクを増加させるとして、
そのメカニズムは何処にあるのでしょうか?

現時点では不明ですが、
上記文献では幾つかの仮説が提示されています。

その1つはプロトンポンプ阻害剤が胃酸を強力に抑制することにより、
胃の殺菌作用が充分に働かず、
繁殖した雑菌により気道の感染が誘発された、
というもので、
蛋白の分解が不充分でそれが抗原として働いた可能性、
更には、
身体の有害物質を除去する働きを持つライソゾームの機能を、
プロトンポンプ阻害剤が抑制してしまうためではないか、
というような仮説も提唱されています。

ただ、いずれも「あり得る」ことではあるのですが、
実際に使用された薬剤で、
そうしたことが起こっているという確証は、
現時点では得られていないと思います。

今後の研究の進捗に注意しつつ、
慎重な処方を心がけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

この記事へのコメント

AF患者
2026年01月27日 10:45
代診のお若いDR.さんがワーフアリンを服用している人は、パリエットを飲みなさい、とのことで2年近く服薬してしまいました。メデアに取り上げられてから止めました。