GLP-1受容体作動薬の耳鼻科領域有害事象について

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1受容体作動薬の耳鼻科領域有害事象.jpg
the Laryngoscope誌に2025年7月付で掲載された、
糖尿病と肥満症の治療薬の、
耳鼻科領域の有害事象についての論文です。

GLP-1受容体作動薬は、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1受容体作動薬を他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

このように非常に評価の高いGLP-1受容体作動薬ですが、
副作用や使用に伴う有害事象も少なからず報告されています。
それはこの薬剤が「やせ薬」のように宣伝され、
あまり医療上適切ではないと思われるものを含めて、
処方が近年世界的に急増しているために、
より顕在化しているという側面があります。

この薬の開発当初から、
吐き気や腹痛などの消化器症状や、
膵炎などの膵臓疾患のリスク増加は、
しばしば問題となって来ました。

ただ、そこまで知られていないものの、
近年問題となっている有害事象もあります。

今回の研究では、特に耳鼻科領域の有害事象にターゲットを当てて、
アメリカのFDAに報告された副作用や有害事象の事例を集計し、
その検証を行っています。

ここで「耳鼻科領域」というのは、
鼻炎やのどの症状などの耳鼻科的疾患以外に、
甲状腺の病気やのどの違和感の原因となる、
逆流性食道炎なども含まれている、
通常より広い範囲を意味しています。

それほど一般には知られていないものの、
指摘される有害事象の1つが、
甲状腺癌リスクの増加です。

これは開発の当初から、
動物実験において、
甲状腺のカルシトニン産生細胞(c細胞)の発癌のリスクを、
GLP-1受容体作動薬が高めるというデータがあったために、
注目された知見です。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMp1001578?url_verf=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

またフランスの臨床データをまとめた論文では、
GLP-1受容体作動薬を1から3年使用することで、
甲状腺癌のリスクが1.58倍、
C細胞由来の癌である甲状腺髄様癌のリスクが1.78倍、
それぞれ有意に増加していると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36356111/

今回の研究ではFDAに報告された9746件の有害事象のデータを、
まとめて解析しています。
解析対象となっているGLP-1受容体作動薬は、
エキセナチド、リラグルチド(商品名ビクトーザ)、セマグルチド(商品名オゼンピック)、
の3種類です。

こうした研究は報告事例をまとめただけで、
その総数が分かっていないので、
明確にリスクを計算出来ないのですが、
他の薬を使用している場合の、
平均的な発症頻度と比較して、
そのリスクを推計しています。
これを比例報告比(RRR)と報告オッズ比(ROR)、
という指標で数値化しています。

その結果、
最もリスクが高かったのは甲状腺癌で、
甲状腺濾胞癌のRORは、
エキセナチドで31.49倍(95%CI:20.33から48.77)、
リラグルチドで111.54倍(95%CI:79.11から157.25)、
セマグルチドで91.24倍(95%CI:59.71から139.42)、
と上昇あり。
甲状腺乳頭癌のRORは、
エキセナチドで28.84倍(95%CI:23.71から35.08)、
リラグルチドで42.87倍(95%CI:34.14から53.84)、
セマグルチドで18.00倍(95%CI:11.65から27.81)、
とこちらも有意に上昇していました。

次にリスクが高かったのは、
逆流性食道炎で、3種の薬剤で同様のリスク増加が認められました。
リラグルチドとセマグルチドについては、
口腔乾燥、味覚障害、嗅覚障害、顔面神経麻痺の、
リスク増加が認められました。

このように、
GLP-1受容体作動薬は、
まだその頻度などは明確ではないものの、
副作用や有害事象のある薬でもあり、
その有効性は確立されていますが、
その安易な使用は好ましくないと思いますし、
使用継続時には甲状腺のチェックなど、
定期的なフォローが必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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