糖尿病治療薬とアルツハイマー型認知症リスクとの関係

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病治療薬とアルツハイマー型認知症リスク.jpg
JAMA Neurology誌に2025年4月7日付で掲載された、
糖尿病の治療薬と認知症との関連についての論文です。

2型糖尿病は全身の血管を障害する病気で、
心血管疾患や網膜症、腎症など、
多くの合併症の存在が知られています。

そのうち、これまであまり強調されることがなかったものの、
最近になってそのリスクが指摘されることが多くなっているのが、
糖尿病と認知症との関連です。

糖尿病の患者さんにおいては、
認知症のリスクが増加していることを示す、
多くの疫学データが存在しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27660698/

その正確な原因は不明ですが、
インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症が、
血液脳関門を通過して脳神経細胞に影響を与え、
脳神経細胞の変性と脱落に結び付く、
というように考えられています。

2型糖尿病には多くの治療薬が使用され、
新薬も開発されていますが、
治療により血糖コントロールが改善することにより、
認知症の予防効果が想定される反面、
多くの糖尿病治療薬には低血糖のリスクがあり、
重症の低血糖が脳にダメージを与え、
それが認知症の誘因となっている可能性も否定は出来ません。
そうした薬物治療の違いが認知症リスクに与える影響については、
まだ確定的な知見のないのが実際です。

2024年の予防医学の雑誌に掲載されたメタ解析の論文では、
ネットワークメタ解析と言う手法で、
個々の薬剤の予防効果を比較した結果、
低血糖を来しやすい薬剤であるSU剤の使用と比較して、
メトホルミンは47%、
尿に糖を排泄する薬剤であるSGLT2阻害剤は59%、
それぞれ認知症のリスク低下に結び付いていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38705542/

今回の研究は、
アメリカのフロリダ州を中心とした、
大規模な医療データを解析することで、
この問題の検証を行っているものです。

対象は登録時点で50歳以上で顕性の認知症のない、
2型糖尿病の患者さん396963名で、
新規の糖尿病治療薬で最近評価の高い、
GLP-1アナログとSGLT2阻害剤の新規処方が、
他の治療薬と比較して、
認知症のリスクに与える影響を比較検証しています。

GLP-1アナログは、
注射や飲み薬として使用され、
体重減少効果のある糖尿病治療薬で、
SGLT2阻害剤は、
尿に糖を排泄する作用のある飲み薬です。
いずれも糖尿病の患者さんの長期予後を、
トータルに改善する薬であることが報告され、
高く評価されている薬剤です。

解析の結果、
GLP-1アナログの新規使用者は、
SU剤やDPP4阻害剤などの他の糖尿病治療薬使用群と比較して、
アルツハイマー型認知症の発症リスクが、
33%(95%CI:0.47から0.96)有意に低下していました。

またSGLT2阻害剤の新規使用者は、
同様の比較でアルツハイマー型認知症の発症リスクが、
43%(95%CI:0.43から0.75)有意に低下していました。

そして、
GLP-1アナログの使用者とSGLT2阻害剤使用者との比較では、
その後のアルツハイマー型認知症発症リスクに、
有意な差は認められませんでした。

このように、
今回の疫学データの解析においては、
2型糖尿病の患者さんでは、
GLP-1アナログもしくはSGLT2阻害剤を使用することが、
他の治療薬を使用する場合よりも、
アルツハイマー型認知症のリスクを低減することに繋がる、
という結果が得られました。

他の臓器保護作用や生命予後改善効果に加えて、
この2種類の薬剤の認知症予防効果も確認されたことで、
今後糖尿病の治療の基礎薬としての、
GLP-1アナログとSGLT2阻害剤の評価は、
より高まることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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