難聴が高齢者の予後に与える影響

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
難聴と孤独.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2025年5月12日付でウェブ掲載された、
難聴への介入が予後に与える影響についての論文です。

超高齢化社会となった現在、
高齢者が心身共に健康な状態を、
出来る限り長く維持することが、
社会としての大きな課題となっています。

今は高齢者でない人も、
いずれは高齢者になる訳ですし、
高齢者が健康であることは、
医療や介護を初めとした、
社会としてのコストを削減することに繋がるので、
これは決して高齢者だけの問題ではありません。

核家族化と共に家族の縦の繋がりも希薄になり、
高齢者が1人暮らしとなることが多くなりました。

そこに周囲からの干渉を好まないという、
現代の風潮も影響して、
高齢者が他者と関わる機会は減り、
高齢者は社会的な孤立状態となり、
孤独を感じることが多くなっていると考えられています。

その行き着く先は、
病気による寝たきりや孤独死の増加です。

こうした高齢者の孤独の問題は、
多くの社会的な因子が絡み合っていて、
そう簡単に解決することは出来ません。

ただ、幾つかの身体的な要因も、
そこに関連していることが指摘されています。

その1つが難聴です。

加齢に伴う難聴は、
非常に一般的な症状で、
上記文献の記載によれば、
70歳以上の3分の2には見られる、
というほどありふれたものです。

しかし、難聴は言語によるコミュニケーションを阻害し、
社会的な孤立の原因となります。
更に認知症のリスクを高めることが指摘されています。

確かにクリニックの診療においても、
高齢で難聴のある患者さんは、
診察時もコミュニケーションは非常に取りにくく、
充分な診療が出来ないことが多いですし、
特に認知症と難聴とが併存していると、
認知症の診断自体も困難で、
その進行も早いことを実感しています。

難聴の治療としては補聴器の利用があり、
最近の補聴器は性能も進歩しているので、
適切に使用すれば、
難聴の患者さんのコミュニケーションの障碍を、
多くの場合に改善出来るのですが、
実際には高齢者で特に認知症があると、
器具の調整や扱いは難しく、
付けるのを止めてしまったり、
器具を紛失することも多く、
利用は困難な場合が多いのが実際です。

それでは、もっと早期の段階で、
積極的に難聴に対する介入を行えば、
高齢者の社会的な孤立感を、
軽減することが出来るのではないでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
高齢者を対象とした疫学研究のデータを活用することで、
この問題の検証を行っています。

明確な認知症がなく、
未治療の加齢性難聴のある70歳から84歳の高齢者、
トータル977名を対象として、
対象者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は定期的な聴力検査や、
適切なタイミングでの補聴器の導入、
その指導教育などの介入を行い、
もう一方は通常の健康指導のみを行って、
3年間の経過観察を施行しています。

その結果、
継続的に交流を持っている人の数(社会的ネットワークサイズ)は、
難聴の介入により1.05人(95%CI:0.01から2.09)増加し、
孤独感の指標にも若干の低下が認められました。

これは短期間の検証に留まっているので、
明確な差が出ているとは言い難いという気もします。

ただ、視力や聴力といった、
感覚機能の老化が、
高齢者の予後に大きく影響することは、
間違いない事実であるので、
こうした介入の効果が、
より大規模かつ長期間で検証され、
その科学的知見に基づいて、
真に有効性のある施策が講じられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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