気管支喘息に対する吸入ステロイドの使用タイミングと有効性比較

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
吸入ステロイドの使用タイミングと有効性.jpg
Thorax誌に2025年4月15日付で掲載された、
喘息治療の吸入薬の、
最適な吸入時間を検証した論文です。

気管支喘息の治療には、
生物学的製剤の注射薬など、
近年多くの新薬が使用されていますが、
吸入で使用されるステロイド剤が、
最も有効性が高く、
第一選択の薬剤であることは変わっていません。

ステロイド剤(糖質コルチコイド製剤)は、
アレルギー性の炎症を強く抑制する効果があり、
以前から喘息の治療には使用されていましたが、
注射や飲み薬としてのステロイドの継続的な使用は、
糖尿病や肥満、胃潰瘍など多くの副作用や有害事象を生じる可能性があり、
その点が大きな問題となっていました。
吸入ステロイドは確実な有効性がある一方で、
そうした副作用や有害事象は極めて少ないことから、
喘息治療の第一選択の薬剤となったのです。

現在では単独の吸入ステロイド剤に加えて、
持続性の気管支拡張剤を併せた製剤が、
多く開発され使用されています。

このように広く喘息治療に普及している吸入ステロイド剤ですが、
その使用のタイミングによって、
効果に違いがあるかどうかについては、
それほど明確なことが分かっていません。

通常今では1日1回使用するタイプの製剤が多く、
一部の薬剤は1日2回もしくは、
発作時の使用も追加可能となっています。

その使用のタイミングについては、
特に決まりはありません。

ただ、喘息の発作は夜間に多いことが知られています。

特に重症の発作は夜間に多く、
それが救急受診などの大きな原因となっています。

喘息の増悪の原因となる、
気道の炎症や閉塞には日内変動があり、
夜間に悪化することも実証されています。

それでは、
夜間に効果のピークが来るように、
その数時間前に吸入をする方が、
より効果があるのではないでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
実際の患者さんでこの疑問の検証を行っているものです。

対象は軽症から中等症の気管支喘息患者25名で、
全工程の解析が可能であったのは21名でした。
全例が吸入系の抗原に対するアレルギー素因を持っています。
少量から中等量までの吸入ステロイドを、
通常治療として継続をされています。

そこでベクロメタゾンプロピオン酸エステルという、
吸入ステロイド剤(商品名キュバールなど)を、
通常の朝夕2回吸入(朝8時から9時に200μg、夕方20時から21時に200μg)
の場合と、
朝の1回吸入(朝8時から9時に400μg)の場合、
午後の1回吸入(午後15時から16時に400μg)の場合の、
3種類に無作為に分け、
それを2週間の未使用期間を挟んで、
各人が3パターン繰り返す、
という方法で28日間それぞれ継続します。

治療の前後で夜間を含めた呼吸機能の検査と、
アレルギーに関わる好酸球などの測定を施行して、
比較検証を行います。

その結果、
通常の1日2回の吸入と比較して、
1秒量という呼吸機能の指標は、
午後1回の吸入ではより改善していた一方で、
朝1回の吸入ではむしろ夜間に悪化していました。
ステロイド吸入の効果の指標の1つである夜間の血液好酸球数は
午後1回の吸入において最も抑制されていました。
一方で発作回数などについては、
3群で明らかな差はありませんでした。

このように、
今回の実際の患者さんを対象とした小規模な研究において、
夜間にピークが来るように、
1日1回夕方の時間帯に吸入ステロイド剤を使用すると、
1日2回の場合や朝1回と比較して、
夜間の呼吸状態はより改善することが確認されました。

ただ、今回の研究は事例として少数である上に、
喘息発作の予防効果などの臨床的な有効性は確認されていないので、
実際に吸入の時間で、
患者さんにメリットがあるかどうかは、
まだ分かりません。

薬を使用するタイミングについては、
臨床医の工夫が活きる分野でもあり、
単なる診療のコツのようなものではなく、
科学的な検証により、
より良い使用法が確定することに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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