「サブスタンス」

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
サブスタンス.jpg
デミ・ムーアの怪演が話題のホラー映画で、
内容は間違いなくホラーなのですが、
2人のメインキャストの演技の質の高さや、
巧みな脚本構成、特殊メイクなどの技術面も評価され、
米アカデミー賞の作品賞にもノミネートされるなど、
批評家筋からの評価も高い作品です。

これは確かに面白くて、
最近のホラーはアーティスティックなものや、
捻った設定のもの、
マニア向けに量産される水準作などが多かったのですが、
これはもう見世物に徹した煽情的で正攻法の娯楽ホラーで、
久しぶりに徹底してやり切った、
という感じの作品でした。

内容的には「ジキルとハイド」に、
「ドリアンクレイの肖像」を併せるという、
ホラーでは古典的な作劇で、
老醜を怖れる50歳のかつてのスター女優に、
デミ・ムーアが扮して、
虚実の危うさを感じさせる、
三面記事的な下品さもあり、
怪しい薬を使って身体が分裂する様を、
高水準の特殊メイクで精緻に見せ、
中段は人間の愚かしさ爆発の、
エロスと暴力と熱情を週刊誌の覗き趣味的に見せると、
ラストは80年代のホラーブームを彷彿とさせる、
血糊飛び散るスプラッターショーで締め括ります。

皆さんはどうせこんなものが見たいんでしょ、
とでも言いたげに、
落ち目のスターを見せ、
セックスアイコンとしての肉体の躍動を見せ、
自暴自棄と暴力を見せ、
奇怪なゲテモノや残酷描写も見せます。

それが才人のフランスの演出家の手際によって、
ある種の藝術性を感じさせ、
とても醒めてシニカルな感じもあります。
こんなものを喜ぶという観客自身が、
何か試されているような感じもあるのです。

ラストのスプラッターは、
「死霊のはらわた」や「ブレインデッド」に肉薄するような凄まじさで、
今の技術であれば、
もっとリアルにも、不気味にも出来るところを、
そこは敢えて、作り物感満載に、
偽物の魅力を振りまいているところも、
確信犯なのだと思います。

この作品が成功しているのは、
その大きな部分がデミ・ムーアの怪演にあることは確かで、
振り切った芝居である一方で、
ちゃんと計算も感じられますし、
何より監督がどのような物を作りたいのか、
この極めて悪趣味な見世物映画の彼方に、
新しい何を見せたいのかを、
理解して演じている点が素晴らしいと思います。

スプラッター描写や露悪的な感じには、
嫌悪感を持つ方も多いと思うのですが、
そうした方もおそらくデミ・ムーアの演技のみは評価すると思うので、
その辺りにも監督の計算がありそうです。

途中で、昔のファンに会う約束をして、
着飾った自分に耐えがたくなって、
約束を反故にしてしまうシーンがあるでしょ。
これ、本当はなくていいんですよね。
でも、こういう分かり易い演技の見せ場を作り、
いい場面でしょ、
ちゃんとこういう描写もするんだよ、
という観客に媚びを売ることで、
矛盾する言い方ですが、
この映画の全体の下品さを、
より高めている点がなかなかクレヴァーだと思います。

そんな訳で、
純然たるホラー映画のジャンル物でありながら、
その枠には嵌まり切らない感じの怪作で、
良く出来たホラー映画というのは、
概ねそうしたものなので、
ホラー映画の歴史に燦然と輝く1作であることは、
間違いがないように思います。

こうした映画のお好きな方には絶対のお薦めですが、
下品な見世物性に振り切っている作品なので、
そうしたものが苦手な方や、
眉を顰めるような方には、
向かないことをお断りしておきます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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