BCGの再接種による結核菌持続感染予防効果
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2025年5月8日付で掲載された、
BCGワクチンの再接種による、
結核の持続感染予防効果についての論文です。
BCGワクチンは日本においては定期接種として、
生後1歳未満で接種の行なわれているワクチンです。
剣山のような針を、
腕に突き刺すという日本独自の接種法で行われています。
ただ、欧米の多くの国では定期接種の対象ではなく、
アジアの一部などの結核の流行地域では、
通常のワクチンのような、
注射針を刺す接種法で行われています。
BCGというのは牛由来の結核菌を弱毒化したものを接種する、
と言うタイプの生ワクチンで、
現在のところ唯一の有効性の確認された「結核菌感染の予防法」です。
BCGに代わる結核予防ワクチンも、
開発はされていますが、
今のところ単独で結核予防効果が確立されている、
と言えるほどのものはなく、
多くはBCGとの併用が行われているからです。
予防法にカギ括弧を付けたのは、
このワクチンが感染自体を予防するのか、
それとも感染による病気の発症や重症化のみを予防するのかについては、
まだ確定した事実とはなっていないからです。
結核菌は通常、
肺結核を発症した患者さんから、
ヒトからヒトの感染を起こし、
身体に侵入した結核菌は肺やリンパ腺に感染巣を作ります。
そのうちの一部が発熱や咳などを伴い、
他人へも感染を起こす「肺結核」を発症し、
その更に一部で髄膜炎などの合併症を起こします。
他の多くの感染者では、
症状は出さないままに終わりますが、
結核菌自体は全て排除されずに体内に残ります。
BCGワクチンの効果は、
髄膜炎などの予防になることは間違いがなく、
肺結核の予防効果は限定的で、
感染自体の予防効果ははっきりしない、
というのが現状なのです。
これまで感染予防効果が不明であったのは、
BCGワクチンによって身体で誘導される免疫と、
自然の感染の反応とを、
明確に見分ける方法がなかったためです。
通常の感染の診断にこれまで使用されて来た、
ツベルクリン反応は、
自然感染でもBCGでも同じように陽性になるので、
どちらであるかが見分けられませんでした。
欧米でBCGが定期接種されない理由の1つは、
感染自体が少ないということと共に、
この感染の診断が曖昧になるため、
という点にもありました。
ただ、最近結核に対する身体の免疫の主体である、
インターフェロンγの測定が行われるようになり、
これは結核菌に対する特異的な反応を見るものなので、
BCG接種では反応せず、
その見分けが可能となりました。
検査の商品名はクオンティフェロンなどと呼ばれています。
2014年のBritish Medical Jurnal誌に発表されたメタ解析の論文では、
これまでのインターフェロンγの測定を行なった、
臨床試験や疫学研究のデータをまとめて解析して、
小児へのBCG接種が、
結核菌の感染予防に与える影響を検証しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25097193/
それによると、
これまでの14の研究データをまとめて解析した結果として、
小児に対するBCG接種は結核菌の感染自体を、
有意に19%予防していました。
つまり、限定的ながらも、
BCG接種は結核菌の感染自体の予防効果を有していました。
一方で結核菌の感染による病気としての結核の発症は、
6種のデータの解析として、
71%抑制していました。
(この群のみでの感染予防は27%と計算されています)
従って、実際の感染から発病への進行を、
58%抑制している、
という推計になっています。
ここまでの話は、
お子さんにBCGワクチンを、
1回のみ接種した場合の話です。
結核感染の問題の1つは、
発病はしなくても持続的な感染に至るケースが多い、
ということです。
南アフリカは結核の世界でも有数の流行国で、
2022年の罹患率は人口10万人当たり468件と推計されています。
クオンティフェロンの陽性者は急増していて、
特に思春期の感染率が年間10%増加していると報告されています。
結核菌の感染者のうち、
肺結核などを発症するのは5から10%で、
それ以外の多くの感染者は、
継続的な感染に至るケースが多いのです。
それでは、症状のないものを含む、
こうした検査陽性事例に対して、
小児期の初回のBCG接種に加えて、
思春期に再度接種することで、
その後の発症を抑制することは出来るのでしょうか?
これはまだ結論の出ていない問題です。
南アフリカにおいて、
12から17歳のクオンティフェロンが陰性でHIV抗体も陰性の、
990名の青少年を対象として、
BCGワクチンの再接種と、
新規結核ワクチンであるH4:IC31ワクチン接種、
そして偽注射の比較を施行した臨床試験が施行され、
その結果が2018年のthe New England Journal of Medicine誌に発表されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29996082/
この研究では、
BCGワクチンの再接種も新規結核ワクチンも、
クオンティフェロンの陽性化を、
阻止するような効果は確認されませんでした。
そして、経過中にクオンティフェロンが陽性が持続する、
結核の持続感染のBCG再接種による予防効果は、
45.4%(95%CI:6.4~68.1)という微妙なものでした。
今回の研究は、
2018年論文でで結果が微妙であった、
BCGによる結核持続感染の予防効果を、
再検証したもので、
南アフリカで年齢が10から18歳の3653名を対象として、
同様の検証を大規模に行っているものです。
その結果今回の検証では、
急性感染のみならず、
結核の持続感染の予防効果も、
確認することは出来ませんでした。
このように、
BCGワクチンを思春期に再接種しても、
明確な結核感染の予防効果は、
現時点では確認出来ないと、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2025年5月8日付で掲載された、
BCGワクチンの再接種による、
結核の持続感染予防効果についての論文です。
BCGワクチンは日本においては定期接種として、
生後1歳未満で接種の行なわれているワクチンです。
剣山のような針を、
腕に突き刺すという日本独自の接種法で行われています。
ただ、欧米の多くの国では定期接種の対象ではなく、
アジアの一部などの結核の流行地域では、
通常のワクチンのような、
注射針を刺す接種法で行われています。
BCGというのは牛由来の結核菌を弱毒化したものを接種する、
と言うタイプの生ワクチンで、
現在のところ唯一の有効性の確認された「結核菌感染の予防法」です。
BCGに代わる結核予防ワクチンも、
開発はされていますが、
今のところ単独で結核予防効果が確立されている、
と言えるほどのものはなく、
多くはBCGとの併用が行われているからです。
予防法にカギ括弧を付けたのは、
このワクチンが感染自体を予防するのか、
それとも感染による病気の発症や重症化のみを予防するのかについては、
まだ確定した事実とはなっていないからです。
結核菌は通常、
肺結核を発症した患者さんから、
ヒトからヒトの感染を起こし、
身体に侵入した結核菌は肺やリンパ腺に感染巣を作ります。
そのうちの一部が発熱や咳などを伴い、
他人へも感染を起こす「肺結核」を発症し、
その更に一部で髄膜炎などの合併症を起こします。
他の多くの感染者では、
症状は出さないままに終わりますが、
結核菌自体は全て排除されずに体内に残ります。
BCGワクチンの効果は、
髄膜炎などの予防になることは間違いがなく、
肺結核の予防効果は限定的で、
感染自体の予防効果ははっきりしない、
というのが現状なのです。
これまで感染予防効果が不明であったのは、
BCGワクチンによって身体で誘導される免疫と、
自然の感染の反応とを、
明確に見分ける方法がなかったためです。
通常の感染の診断にこれまで使用されて来た、
ツベルクリン反応は、
自然感染でもBCGでも同じように陽性になるので、
どちらであるかが見分けられませんでした。
欧米でBCGが定期接種されない理由の1つは、
感染自体が少ないということと共に、
この感染の診断が曖昧になるため、
という点にもありました。
ただ、最近結核に対する身体の免疫の主体である、
インターフェロンγの測定が行われるようになり、
これは結核菌に対する特異的な反応を見るものなので、
BCG接種では反応せず、
その見分けが可能となりました。
検査の商品名はクオンティフェロンなどと呼ばれています。
2014年のBritish Medical Jurnal誌に発表されたメタ解析の論文では、
これまでのインターフェロンγの測定を行なった、
臨床試験や疫学研究のデータをまとめて解析して、
小児へのBCG接種が、
結核菌の感染予防に与える影響を検証しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25097193/
それによると、
これまでの14の研究データをまとめて解析した結果として、
小児に対するBCG接種は結核菌の感染自体を、
有意に19%予防していました。
つまり、限定的ながらも、
BCG接種は結核菌の感染自体の予防効果を有していました。
一方で結核菌の感染による病気としての結核の発症は、
6種のデータの解析として、
71%抑制していました。
(この群のみでの感染予防は27%と計算されています)
従って、実際の感染から発病への進行を、
58%抑制している、
という推計になっています。
ここまでの話は、
お子さんにBCGワクチンを、
1回のみ接種した場合の話です。
結核感染の問題の1つは、
発病はしなくても持続的な感染に至るケースが多い、
ということです。
南アフリカは結核の世界でも有数の流行国で、
2022年の罹患率は人口10万人当たり468件と推計されています。
クオンティフェロンの陽性者は急増していて、
特に思春期の感染率が年間10%増加していると報告されています。
結核菌の感染者のうち、
肺結核などを発症するのは5から10%で、
それ以外の多くの感染者は、
継続的な感染に至るケースが多いのです。
それでは、症状のないものを含む、
こうした検査陽性事例に対して、
小児期の初回のBCG接種に加えて、
思春期に再度接種することで、
その後の発症を抑制することは出来るのでしょうか?
これはまだ結論の出ていない問題です。
南アフリカにおいて、
12から17歳のクオンティフェロンが陰性でHIV抗体も陰性の、
990名の青少年を対象として、
BCGワクチンの再接種と、
新規結核ワクチンであるH4:IC31ワクチン接種、
そして偽注射の比較を施行した臨床試験が施行され、
その結果が2018年のthe New England Journal of Medicine誌に発表されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29996082/
この研究では、
BCGワクチンの再接種も新規結核ワクチンも、
クオンティフェロンの陽性化を、
阻止するような効果は確認されませんでした。
そして、経過中にクオンティフェロンが陽性が持続する、
結核の持続感染のBCG再接種による予防効果は、
45.4%(95%CI:6.4~68.1)という微妙なものでした。
今回の研究は、
2018年論文でで結果が微妙であった、
BCGによる結核持続感染の予防効果を、
再検証したもので、
南アフリカで年齢が10から18歳の3653名を対象として、
同様の検証を大規模に行っているものです。
その結果今回の検証では、
急性感染のみならず、
結核の持続感染の予防効果も、
確認することは出来ませんでした。
このように、
BCGワクチンを思春期に再接種しても、
明確な結核感染の予防効果は、
現時点では確認出来ないと、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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