百日咳の診断を考える

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
百日咳のガイドライン.jpg
百日咳の届け出についてのガイドラインが、
2025年3月に改訂されました。

百日咳が流行していると報道されています。

実は15年前の2010年にも、
大人を学童や大人を中心とした流行があり、
その診断に難渋したことを記憶しています。

当時は百日咳は基本的に子供だけの病気として認識され、
その統計は定点医療機関での報告のみ、
それも小児のみのものしか発表されていませんでした。
診断法は血液の抗体検査のみしか、
保険適応はされていませんでした。

それが2016年の11月から、
遺伝子検査のLamp法が保険適応となり、
2017年12月15日より、
それまでの定点医療機関のみでの報告から、
全例報告の感染症となり、
2021年5月に迅速診断のイムノクロマト法のキットが、
健康保険に収載されました。

百日咳は百日咳菌による細菌感染症で、
その名前の通り3か月も続くことがある、
咳の症状で知られています。

通常は普通の風邪のような鼻水や咽喉の痛みで始まり、
それから1から2週間くらいすると、
発作性の咳に症状が変わります。
治療は抗菌剤に一定の効果がありますが、
症状が出現してから4週間以内でないと、
症状を改善することは難しいと言われています。

この病気の診断はまず特徴的な症状で、
発作性の咳と、咳き込みの後の嘔吐、
息を吸った時の笛のようなヒューヒュー音がその特徴とされています。

こうした咳で百日咳の存在を疑うと、
発症から2週間以内であれば、
鼻や咽喉から検体を取って、
細菌培養の検査や遺伝子検査が行われます。
(遺伝子診断は咳が出てから3週間くらいは検出可能)
症状が出てから3週間以降になると、
今度は血液の抗体が上昇するので、
それによる診断が可能となります。
通常1回のみの測定での判断が可能な、
抗PT-IgG抗体が、
現在は使用されることが多いようです。

このように、
闇雲に検査をするのではなく、
症状から百日咳を疑った場合に検査をするのですが、
抗菌剤の有効性は早期であるほど高い反面、
早期の診断は難しいというジレンマがあります。
また、小児と大人では症状経過が異なる場合が多いのですが、
そうした検証があまりこれまでに行われて来なかった、
という問題も指摘されています。

この検査のタイミングについて、
上記ガイドラインに記載されている図をお示しします。
こちらです。
百日咳の検査推奨期間の図.jpg
血液の抗体検査をすることが、
診断確定には最も確実性が高いのですが、
確定診断は回復期にしか付かない、
というのが抗体検査の最も大きな問題点です。

インフルエンザも以前はそうした状態であったところ、
抗原の迅速診断が急速に普及して、
診断のスタンダードとなりました。

そこで百日咳においても、
イムノクロマト法による抗原迅速検査が、
診断のブレイクスルーになると期待をされるところです。

ただ、現状はそこまで信頼性の高いものではなさそうです。

上記ガイドラインにはこうした記載があります。
百日咳のイムノクロマト法.jpg

細かい字で見づらいことをお許し下さい。
要するにこの抗原検査は、
現在日本の1つの検査会社のみで発売されている商品で、
百日咳菌のみで陽性になるのではなく、
その類縁の細菌でも陽性となる可能性のある検査です。

現時点で世界的に、
この検査が施行されているという事実はありません。

そのため、
流行期で典型的な症状での発症であれば、
補助的な診断としての意味はあるけれど、
この検査をもって百日咳の診断を、
それだけで下すことは問題がある、
という趣旨であると思います。

ただ、上記ガイドラインにおいては、
そうした信頼性の低い検査であるにも関わらず、
それが陽性であれば、
百日咳と診断しても差し支えない、
というような記載になっています。
つまり、遺伝子検査や抗体検査と同等の評価なのです。

これは何故なのでしょうか?

日本の公的なガイドラインは、
日本独自の検査というものに、
非常に甘い傾向がいつもあるので、
また、いつものやつだな、
というように思わなくもありません。

しかも百日咳流行の今は、
抗原検査は品切れが続いて、
多くの医療機関において、
注文しても手には入らないという状態です。

その場で結果の分かる抗原検査は、
新型コロナやインフルエンザ、溶連菌感染症のように、
国際的にも一定の評価があり、
複数の検査会社から検査キットが販売されていて、
一定の精度と信頼性とが確認されているものもあれば、
あまりそうした裏付けがなく、
専門家の評価も芳しくない、
というものもあります。
現状咳の風邪という共通点のある、
マイコプラズマ感染症と百日咳の抗原検査は、
その後者になると言って良く、
その実施と評価は当面は慎重であるべきのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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