歩行の速度と不整脈リスク(2025年UKバイオバンク使用疫学データ)

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療と産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
歩行速度と不整脈リスク.jpg
Heart誌に2025年4月15日付で掲載された、
歩行速度と不整脈発症との関連についての論文です。

歩くことが最も簡単で、
かつその健康効果が証明されている運動であることは、
これまでに多くの精度の高い研究で、
実証されている事実です。
その幾つかは本ブログでも過去にご紹介しています。

このことは逆に言えば、
自力で歩行が困難となることが、
最も健康に悪影響を与える結果になる、
ということを示しています。

勿論、これは生まれつき歩行の障碍をお持ちであったり、
事故などで急に歩行が困難になった、
といような方は除外しての話です。

歩行を身体活動(運動)として捉える時、
まず指標となるのは歩数です。

データにより違いはありますが、
1日5000歩から8000歩くらいを目標として習慣化することが、
病気の予防や健康保持の観点からは、
最も有効性が高いということも、
ほぼほぼ世界的にコンセンサスが得られている指標です。

次に歩行の質として研究されているのが、
本日のテーマである歩行速度です。

歩行速度を高める、すなわち速足で歩くほど、
歩行の身体活動としての強度は高まります。

実際意識的に時々速足で歩くことにより、
その健康効果はより高まった、
とする報告も近年多く認められます。

高齢になると、
早く歩くことは次第に困難になります。
歩行という運動は、
筋力やバランス感覚、周辺の危険を察知する能力など、
多くの身体機能を複雑に組み合わせて行うものなので、
それらの機能が年齢により低下してくると、
歩行のスピードは通常より低下するのです。

2011年にJAMA誌に発表された論文によると、
65歳以上の歩行速度の平均は時速3.3キロくらいで、
年齢により歩行速度は低下し、
歩行速度の低下は、
寿命の短縮と関係していました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21205966/

高齢者では、
歩行速度が速いほど、
長生きという関係があるのです。

ただ、個々の病気のリスクと歩行スピードとの関連については、
歩数ほど明らかになっている訳ではありません。

今回の研究は、
遺伝情報を含むイギリスの大規模疫学データである、
UKバイオバンクのデータを活用して、
歩行速度と不整脈リスクとの関連を検証しています。

対象はUKバイオバンクの登録者420925名で、平均年齢は55歳、
歩行速度はアンケートにより、
標準(時速3から4キロ)、低速(時速3キロ未満)、速歩(時速4キロを超える)、
の3種類に分け、
平均で13年という長期の観察を施行しています。
そのうちの81956名では、
加速度計を用いた実際の歩行速度の測定も施行しています。

その結果、
観察期間中の不整脈の発生リスクは、
ゆっくり歩きの低速群と比較して、
標準速度群では35%(95%CI:0.62から0.68)、
速歩群では43%(95%CI:0.54から0.60)、
それぞれ有意に低下していました。

脳卒中や心不全の原因となる心房細動のリスクも、
ゆっくり歩きの低速群と比較して、
標準速度群では38%(95%CI:0.58 から0.65)、
速歩群では46%(95%CI: 0.50から0.57)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
早歩きはゆっくり歩く場合と比較して、
不整脈の予防効果が高い身体活動であることは間違いがなく、
勿論無理に速く歩こうとすることは、
特に高齢者では転倒リスクにも繋がるので、
安全な範囲で行うことが重要ですが、
無理なく速く歩く習慣を続けることは、
一定の歩数を満たした方にとって、
新たな健康増進のための目標として、
有効なものと言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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