スタチンの肝細胞癌及び肝不全予防効果
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年3月17日付で掲載された、
コレステロール降下剤の肝臓病への効果についての論文です。
肝細胞癌は近年増加している癌の1つです。
慢性B型肝炎や慢性C型肝炎は、
肝細胞癌の原因として主要なものと考えられて来ました。
ただ、近年の抗ウイルス剤の進歩と、
肝炎ウイルス検診などの早期診断の試みにより、
慢性ウイルス肝炎を原因とする肝細胞癌は、
減少に転じています。
その一方で、
非アルコール性脂肪性肝疾患やアルコール性肝炎など、
ウイルス性肝炎以外の原因による、
肝臓の線維化の進行から、
肝細胞癌になる患者さんが増加しています。
このウイルス性肝炎以外の慢性肝障害から、
肝臓の線維化の進行や肝細胞癌を予防するための、
有効な治療法が求められているのです。
その1つの候補として考えられているのが、
コレステロール降下剤のスタチンの使用です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血液のLDLコレステロール値を低下させる薬ですが、
それに加えて抗炎症作用や一部の癌の増殖抑制作用などが報告されていて、
慢性ウイルス肝炎による肝細胞癌においても、
その発症予防や予後の改善に、
一定の有効性が認められたとする報告があります。
たとえば、2023年に発表されたメタ解析の論文では、
スタチンの使用により、肝細胞癌のリスクは48%、
有意に低下が認められています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36625733/
ただ、このスタチンによる肝細胞癌予防効果が、
肝臓の線維化の進行予防を介して有効であるのか、
といった詳細については明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
40歳以上で慢性肝炎と診断され、
FIB-4スコアという肝臓の線維化の指標が、
1.3以上と、軽度でも線維化の疑われる事例、
16501例を対象として、
スタチンの使用者と非使用者とに分け、
数年以上の径か観察を施行して、
肝臓の線維化の進行や肝細胞癌発症のリスクを、
比較検証しています。
スタチンには大きく分けると、
水溶性と脂溶性の2種類があります。
今使用されているものの中では、
水溶性スタチンがプラバスタチンとロスバスタチンで、
脂溶性スタチンがアトルバスタチン、シンバスタチン、
フルバスタチン、ロバスタチンです。
今回の検証では水溶性スタチンと脂溶性スタチンに分けての解析も、
同時に施行をしています。
その結果、
10年間の累積の肝細胞癌罹患率は、
スタチン使用者は3.8%なのに対して、
非使用者は8.0%で、
スタチンの使用は絶対リスクで、
4.2%(95%CI:-5.3から-3.1)、
肝細胞癌の発症を予防した、
と計算されました。
相対リスクで見るとスタチンの使用は、
肝細胞癌のリスクを33%(95%I:0.59から0.76)、
有意に低下させていました。
また、肝臓病が進行して肝不全に罹患したのは、
10年の累積でスタチン使用者が10.6%なのに対して、
非使用者は19.5%で、
スタチンの使用は絶対リスクで、
9.0%(95%CI:-10.6から-7.3)、
肝不全に進行するリスクを予防した、
と計算されました。
相対リスクで見るとスタチンの使用は、
肝不全になるリスクを22%(95%CI:0.67から0.91)、
有意に低下させていました。
スタチンの種別毎の解析では、
脂溶性スタチンの方が水溶性スタチンよりも、
より大きく肝細胞癌のリスクと肝不全進行のリスクを低下させていました。
また線維化進行の指標を用いた解析では、
スタチン使用者で線維化の進行が抑制されていることも確認されました。
このように、
今回の大規模な疫学データにおいては、
スタチンの慢性肝炎の患者さんにおける、
肝不全の進行や肝細胞癌の発症を予防する効果が、
再確認されると共に、
それが肝臓の線維化の進行予防効果と、
一致していることも確認されました。
スタチンの肝臓への有効性は、
ほぼ確立されていると言えそうですが、
今後は肝臓に対するスタチン治療の道筋が、
早急に具体化することを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年3月17日付で掲載された、
コレステロール降下剤の肝臓病への効果についての論文です。
肝細胞癌は近年増加している癌の1つです。
慢性B型肝炎や慢性C型肝炎は、
肝細胞癌の原因として主要なものと考えられて来ました。
ただ、近年の抗ウイルス剤の進歩と、
肝炎ウイルス検診などの早期診断の試みにより、
慢性ウイルス肝炎を原因とする肝細胞癌は、
減少に転じています。
その一方で、
非アルコール性脂肪性肝疾患やアルコール性肝炎など、
ウイルス性肝炎以外の原因による、
肝臓の線維化の進行から、
肝細胞癌になる患者さんが増加しています。
このウイルス性肝炎以外の慢性肝障害から、
肝臓の線維化の進行や肝細胞癌を予防するための、
有効な治療法が求められているのです。
その1つの候補として考えられているのが、
コレステロール降下剤のスタチンの使用です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血液のLDLコレステロール値を低下させる薬ですが、
それに加えて抗炎症作用や一部の癌の増殖抑制作用などが報告されていて、
慢性ウイルス肝炎による肝細胞癌においても、
その発症予防や予後の改善に、
一定の有効性が認められたとする報告があります。
たとえば、2023年に発表されたメタ解析の論文では、
スタチンの使用により、肝細胞癌のリスクは48%、
有意に低下が認められています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36625733/
ただ、このスタチンによる肝細胞癌予防効果が、
肝臓の線維化の進行予防を介して有効であるのか、
といった詳細については明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
40歳以上で慢性肝炎と診断され、
FIB-4スコアという肝臓の線維化の指標が、
1.3以上と、軽度でも線維化の疑われる事例、
16501例を対象として、
スタチンの使用者と非使用者とに分け、
数年以上の径か観察を施行して、
肝臓の線維化の進行や肝細胞癌発症のリスクを、
比較検証しています。
スタチンには大きく分けると、
水溶性と脂溶性の2種類があります。
今使用されているものの中では、
水溶性スタチンがプラバスタチンとロスバスタチンで、
脂溶性スタチンがアトルバスタチン、シンバスタチン、
フルバスタチン、ロバスタチンです。
今回の検証では水溶性スタチンと脂溶性スタチンに分けての解析も、
同時に施行をしています。
その結果、
10年間の累積の肝細胞癌罹患率は、
スタチン使用者は3.8%なのに対して、
非使用者は8.0%で、
スタチンの使用は絶対リスクで、
4.2%(95%CI:-5.3から-3.1)、
肝細胞癌の発症を予防した、
と計算されました。
相対リスクで見るとスタチンの使用は、
肝細胞癌のリスクを33%(95%I:0.59から0.76)、
有意に低下させていました。
また、肝臓病が進行して肝不全に罹患したのは、
10年の累積でスタチン使用者が10.6%なのに対して、
非使用者は19.5%で、
スタチンの使用は絶対リスクで、
9.0%(95%CI:-10.6から-7.3)、
肝不全に進行するリスクを予防した、
と計算されました。
相対リスクで見るとスタチンの使用は、
肝不全になるリスクを22%(95%CI:0.67から0.91)、
有意に低下させていました。
スタチンの種別毎の解析では、
脂溶性スタチンの方が水溶性スタチンよりも、
より大きく肝細胞癌のリスクと肝不全進行のリスクを低下させていました。
また線維化進行の指標を用いた解析では、
スタチン使用者で線維化の進行が抑制されていることも確認されました。
このように、
今回の大規模な疫学データにおいては、
スタチンの慢性肝炎の患者さんにおける、
肝不全の進行や肝細胞癌の発症を予防する効果が、
再確認されると共に、
それが肝臓の線維化の進行予防効果と、
一致していることも確認されました。
スタチンの肝臓への有効性は、
ほぼ確立されていると言えそうですが、
今後は肝臓に対するスタチン治療の道筋が、
早急に具体化することを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
この記事へのコメント
お忙しい所申し訳ありません。教えて下さい。現在入院中の弟の症状についてです。
弟は2022年10月ベーチェット病と診断されました。
回復傾向にあったものの
2024年6月に骨髄抑制が認められ血液腫瘍科を受診し、
7月に末梢血幹細胞移植をすることが決まりました。骨髄異形成症候群とのことです。
10月に移植を行いました。ドナーは患者の長女です。
11月、医師から寛解を言われ、生着成功と喜びました。
12月、退院して週1回の外来診察を続けていましたが、
2025年3月末、医師曰く「悪い細胞が息を吹き返している。移植しかない」と。
2025年4月1日入院 臍帯血移植が決まる(現在の病名は急性骨髄性白血病です)
4月4日から臍帯血移植の前処置としてビキセオス配合静注の投与が始まる。
4月18日現在、あとは移植を待つのみという時期に来て、医師から、
「患者のあの発作はいまだに起きている。この原因がわからないままでの移植はできない」
その発作とは、
顔がほてって全身が赤くなり、血圧の上が80まで下がり頭痛と胸痛があるという発作です
当初ロキソニンを投与したら効いたので予防的に1日3回の服薬をしているがそれでも発作は起きている。
心エコーを調べたり、CT、レントゲンも検査したが、心臓に異常はなし。
脳のCT,MRIを撮ったが異常は見られない。
発作時に発熱はありません。
CRPが高めなので抗生剤を投与しています。
検査結果に応じて、カリウムや利尿剤を投与するときがあります。
この発作は、臍帯血移植の前処置としてのビキセオス配合静注の前からありました。
「医師はさまざまな症例を調べているが、この発作がどこから来るものなのかわからない」
と言っています。
石原先生、このような発作の症例をご存じありませんか?
なにか参考になるような情報がありましたら教えてください。
弟が入院しているのは、ある大学病院血液・腫瘍内科です。
よろしくお願いいたします。
私は2019/11/30、娘のペニシリンアレルギーについてお世話になったPerrierです。
リンパ節の腫脹はないそうです。
また、キャッスルマン病といわれたこともないそうです。
コメント、たいへん参考になりました。
引き続き、似たような症例を探し続けます。
ありがとうございました。感謝申し上げます。 Perrier
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
弟様ご心配なことと思います。
顔の紅潮を伴う発作としては、
カルチノイド症候群やヒスタミン上昇に伴うものの可能性は、
なさそうでしょうか?
通常どちらも下痢を伴いますので、
その点は典型的ではないようにも思います。
それ以外は…あまり思いつくものがありません。
あまりお役に立てず申し訳ありません。
先生は最新の論文からのお考えをお伝え下さるので
私はいつも勉強させてもらっています。
この度はお忙しい中、お答えいただいてありがとうございます。
主治医はまだ発作の原因がつかめてなくて移植に至っておりません。
先生がご指摘された内容は早速弟の家族に伝えさせていただきます。
本当にありがとうございました。
Perrier