帯状疱疹予防ワクチンの認知症予防効果

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
帯状疱疹ワクチンの認知症予防効果.jpg
Nature誌に2025年4月2日付で掲載された、
帯状疱疹ワクチンの認知症予防効果についての論文です。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こすのです。

帯状疱疹で問題となるのは、
帯状疱疹後神経痛ばかりではなく、
脳卒中などのリスクが、
その後に増加することが指摘されています。
2014年のClinical Infectious Diseases誌に掲載された論文では、
帯状疱疹発症後4週以内の脳卒中のリスクが、
通常より63%増加したと報告されていまる。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24700656/

また、認知症との関連を指摘する意見もあります。

ウイルス感染症に罹患することが、
その後の認知症のリスクになるという考え方は以前からあり、
帯状疱疹との関連を指摘する知見もあります。
特に三叉神経領域への感染では、
直接脳神経に炎症が及んでいることから、
そのリスクを指摘する意見があります。

ただ、帯状疱疹後に認知症のリスクが増加した、
という報告がある一方で、
明確な関連は認められなかった、という報告もあり、
その結果は一致していません。

近年帯状疱疹の発症予防のために、
シングリックスという名前の不活化ワクチンと、
海外ではゾスタバックス、日本では国産の水痘ワクチンの、
弱毒生ワクチンの使用が、
開始され一定の予防効果が確認されています。

それでは、こうしたワクチンの接種により、
その後の認知症のリスクには何か変化があるのでしょうか?

2024年にmedRxivという、
まだ査読前の論文を公開さいているサイトに発表された研究では、
ウェールズ地方での疫学データの解析により、
帯状疱疹予防の弱毒生ワクチンを接種すると、
しない場合と比較して、
その後9年間に新たに軽度認知機能障害(認知症の前段階)を来すリスクが、
3%有意に低下しており、
不活化ワクチンのシングリックスを接種した、
認知症と診断されている患者さんは、
していない患者さんと比較して、
認知症により死亡するリスクが29.5%有意に低下していました。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2024.08.23.24312457v1

つまり、
帯状疱疹予防ワクチンの接種により、
認知症の発症リスクは低下し、
認知症に生命予後も改善される可能性がある、
ということを示唆するデータです。

今回ご紹介する論文は、
この2024年のmedRxiv論文を改変したもので、
目出度く超一流誌のNature誌に掲載されたものです。

内容としては、2024年論文のデータのうち、
不活化ワクチンによる死亡リスク低下についての部分を削除し、
生ワクチン(海外製のゾスタバックス)による認知症リスク低下に絞って、
そのデータをより厳密に検証しているものです。

ウェールズ地方では、
生年月日で振り分けての帯状疱疹ワクチン接種が施行されていて、
それを臨床試験の振り分けと同様に考えて、
ワクチン接種の有無と、その後の認知症発症との関連を見ているのです。

その結果7年間の観察期間中における、
新たに認知症と診断されるリスクは、
絶対リスクで3.5%(95%CI:0.6から7.1)、
相対リスクで20.0%(95%CI:6.5から33.4)、
有意に低下していました。
この生ワクチンによる認知症予防効果は、
男性より女性でより強く認められました。

このように、
今回の研究では帯状疱疹予防の生ワクチンの接種が、
その後の認知症の予防に繋がる可能性が示唆されました。

これはまだ今後の研究の積み重ねが必要なデータですが、
現行主に使用されている不活化ワクチンでも、
同様の効果が得られるのかの解析を含めて、
今後の研究の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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