女性ホルモン補充療法と認知症との関連
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
小学校の健診や老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Science Advances誌に2025年3月5日付で掲載された、
女性ホルモンの補充療法と認知症との関連についての論文です。
認知症には幾つかの種類があり、
そのタイプ毎に性差のあることが知られています。
認知症の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、
この病気は女性が男性の倍くらい多いことが知られています。
その一方で脳動脈硬化を主な原因とする脳血管性認知症は、
逆に女性のほぼ2倍男性に多い病気です。
それ以外のタイプの認知症には、
明確な性差は報告されていません。
それでは、何故アルツハイマー型認知症は女性に多いのでしょうか?
当初は女性ホルモンが低下することが要因であると考えられ、
更年期以降の女性ホルモンの補充療法が、
認知症予防にも有効ではないかと想定されました。
ところが、2003年に発表された論文によると、
65歳以上でエストロゲンとプロゲステロンによるホルモン補充療法を施行していると、
しない場合の2倍以上認知症のリスクが増加した、
という結果が報告されて、一般の方にも衝撃を与えました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12771112/
その後の検証の結果、
閉経前後に施行されたホルモン補充療法では、
そうした認知症リスクの増加は認められず、
閉経から10年以上は経過した年齢で施行した場合に、
認知症リスクが明確化することが確認されました。
そのため現行の多くのガイドラインにおいては、
女性ホルモン補充療法は、
閉経から10年以内に開始することが推奨されています。
それでは、女性ホルモン補充療法を65歳以上で継続することが、
何故認知症のリスクを高めることに繋がるのでしょうか?
今回の研究はアメリカにおいて、
高齢者の脳機能についての臨床研究のデータを二次利用して、
女性ホルモン補充療法と、
アルツハイマー型認知症の脳の変化を反映する、
PET検査によるタウ蛋白などの沈着との関連を、
検証しているものです
アルツハイマー型認知症では、
まずアミロイドβ42という異常蛋白が脳に蓄積し、
それから時間差をおいて、
今度は異常にリン酸化したタウ蛋白、
という異常蛋白の蓄積が起こります。
登録の時点で51から89歳の146名の女性に、
時間をおいて2回のPET検査を施行し、
アミロイドβとタウ蛋白の蓄積の程度を測定します。
ここで70歳を超える女性では、
ホルモン補充療法を施行しているとしていない場合と比較して、
異常タウ蛋白の蓄積が、
より進行していることが確認されました。
このタウ蛋白の蓄積は、
嗅内皮質、側頭葉の下側頭回、紡錘状回という、
アルツハイマー型認知症の初期に障害される部位に、
一致して認められました。
一方で70歳未満の女性においては、
ホルモン補充療法の施行は、
異常タウ蛋白の蓄積に、
明確な影響を与えてはいませんでした。
このように、従来の臨床的な知見と一致して、
70歳を超える高齢でホルモン補充療法を施行していると、
アルツハイマー型認知症の初期に見られる変化が、
より急速に進行することが確認されました。
こうした現象の詳細なメカニズムはまだ不明ですが、
高齢でのホルモン療法の継続が、
認知症のリスクになることは間違いがなく、
ホルモン療法は閉経から10年以内に施行することが、
認知症予防の観点からは重要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
小学校の健診や老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Science Advances誌に2025年3月5日付で掲載された、
女性ホルモンの補充療法と認知症との関連についての論文です。
認知症には幾つかの種類があり、
そのタイプ毎に性差のあることが知られています。
認知症の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、
この病気は女性が男性の倍くらい多いことが知られています。
その一方で脳動脈硬化を主な原因とする脳血管性認知症は、
逆に女性のほぼ2倍男性に多い病気です。
それ以外のタイプの認知症には、
明確な性差は報告されていません。
それでは、何故アルツハイマー型認知症は女性に多いのでしょうか?
当初は女性ホルモンが低下することが要因であると考えられ、
更年期以降の女性ホルモンの補充療法が、
認知症予防にも有効ではないかと想定されました。
ところが、2003年に発表された論文によると、
65歳以上でエストロゲンとプロゲステロンによるホルモン補充療法を施行していると、
しない場合の2倍以上認知症のリスクが増加した、
という結果が報告されて、一般の方にも衝撃を与えました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12771112/
その後の検証の結果、
閉経前後に施行されたホルモン補充療法では、
そうした認知症リスクの増加は認められず、
閉経から10年以上は経過した年齢で施行した場合に、
認知症リスクが明確化することが確認されました。
そのため現行の多くのガイドラインにおいては、
女性ホルモン補充療法は、
閉経から10年以内に開始することが推奨されています。
それでは、女性ホルモン補充療法を65歳以上で継続することが、
何故認知症のリスクを高めることに繋がるのでしょうか?
今回の研究はアメリカにおいて、
高齢者の脳機能についての臨床研究のデータを二次利用して、
女性ホルモン補充療法と、
アルツハイマー型認知症の脳の変化を反映する、
PET検査によるタウ蛋白などの沈着との関連を、
検証しているものです
アルツハイマー型認知症では、
まずアミロイドβ42という異常蛋白が脳に蓄積し、
それから時間差をおいて、
今度は異常にリン酸化したタウ蛋白、
という異常蛋白の蓄積が起こります。
登録の時点で51から89歳の146名の女性に、
時間をおいて2回のPET検査を施行し、
アミロイドβとタウ蛋白の蓄積の程度を測定します。
ここで70歳を超える女性では、
ホルモン補充療法を施行しているとしていない場合と比較して、
異常タウ蛋白の蓄積が、
より進行していることが確認されました。
このタウ蛋白の蓄積は、
嗅内皮質、側頭葉の下側頭回、紡錘状回という、
アルツハイマー型認知症の初期に障害される部位に、
一致して認められました。
一方で70歳未満の女性においては、
ホルモン補充療法の施行は、
異常タウ蛋白の蓄積に、
明確な影響を与えてはいませんでした。
このように、従来の臨床的な知見と一致して、
70歳を超える高齢でホルモン補充療法を施行していると、
アルツハイマー型認知症の初期に見られる変化が、
より急速に進行することが確認されました。
こうした現象の詳細なメカニズムはまだ不明ですが、
高齢でのホルモン療法の継続が、
認知症のリスクになることは間違いがなく、
ホルモン療法は閉経から10年以内に施行することが、
認知症予防の観点からは重要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
この記事へのコメント
いつも読ませて頂いております。
よろしければ質問させてください。
現在93歳の母は、32歳で子宮筋腫の手術をし、
72歳で右側乳がん全摘、その後アリミデックスを5年服用後、
(タモキシフェンの代わりにと思い)現在までラロキシフェンを17年間服用して参りました。
アリミデックス服用時から骨密度も急激に下がったので、骨粗鬆症には焼け石に水とは思いつつ今日まで服用しております。
87歳の時MRI検査で中程度以上の萎縮が見られ、アルツハイマーと診断して問題は無いと言われましたが、
現在まで私といれば生活にさほど支障も無く穏やかに楽しく暮らしています。
こちらの記事で言う女性ホルモン補充療法とは違いますが、
(アルツハイマーと)ラロキシフェンの長期服用について先生のご意見をご教示願えればとてもありがたいです。
突然の長いメールをお許しください。
これからも興味深いブログ、楽しみに読ませていただきます。
お体大切になさってください。
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
文献を検索した範囲ではあまり新しい報告はなく、
以前のものでは、、
ラロキシフェンが認知機能低下を予防するのでは、
というような報告が幾つかあります。
また、少数ですが、女性ホルモン様作用が、
神経細胞に悪影響を与えるのでは、
というようなものもあります。
おそらく大きな影響はないように考えますが、
高齢女性での使用は、
矢張り若干の認知症リスクはあると、
そう考えておいた方が安全、
というように考えます。
ご参考になれば幸いです。
丁寧でお優しいお返事を本当に嬉しく読ませて頂きました。
また、見ず知らずの私の質問に貴重なお時間を費やし調べてくださり感謝の念に絶えません。
現在母はラロキシフェンの他ユニシアLD、スタチン等服用しております。
ユニシアは以前のこちらのブログ記事を参考にさせて頂きホームドクターとも相談し、就寝前の服用です。
骨粗鬆症に対しては、テリパラチド皮下注射も2022年7月から2年間完遂しましたが、
整形の先生の、
「これは効くよ~、骨密度結構上がるはず。」
との力強い言葉に反し全然上がらず、
少しオィオィ(/。\)と言う結果でしたが、
下がらなかったので良しとしました。
デノスマブも考えましたが私が2年間終わらせてみてもほぼ効果がなかったので(医師や製薬会社からすると期待はずれな母娘です)、
口腔ケアを頑張っているつもりなのに歯科医通いの多い母にはしない方がいいかなぁと考え、
「転んだら終わりだ!」
を合言葉に、仲良く手を繋いで散歩をしたり家で他人が見たら爆笑しそうな訳の分からない自己流の体操をしています。
私がいないと多分ただのボケ老人かも知れませんが、
娘の事を想って要所要所はしっかりしており(優しくて可愛い母です)、
ケ・セラ・セラで毎日を楽しく仲良く過ごしたいと願っています。
乳がんの5年後に低分化の胃がんにも罹患し(早期に手術が出来てリンパにも転移無しでした)、
父も稀な悪性組織球症で亡くしたので“がんの告知”にトラウマがあり、
ついついおまじない代わりにラロキシフェンを継続して参りました。
幸いにも現在血液検査なども全て数値のまん真ん中の優秀な母ですが、
先生のご助言も念頭に考えて参ります。
長文になってしまい申し訳ありません。
素人のしがない質問にご回答くださり大切な母への気持ちがまた溢れて参りました。
先生に診察して頂ける患者さんたちの安心感が手に取るように分かります。
石原先生、本当にありがとうございました。
これからもブログで勉強させてください。
どうぞご家族のためにも患者さんたちのためにもご自愛ください。
池田