慢性硬膜下血種に対する血管塞栓術の有効性
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2025年2月27日付で掲載された、
慢性硬膜下血腫の治療についての論文です。
「慢性硬膜下血腫」は、
高齢者に多い病気です。
60歳以上では、
人口10万人当たり、5人程度の発症率との、
報告がありますが、
実際には診断されない例もかなりあると思われ、
潜在的な患者さんの数は、
多分その統計の数倍はあると考えられます。
典型的な経過は軽い転倒などの後、
しばらくしてから歩行時のふらつきなどの症状が出現し、
脳に血種が確認されるというものです。
脳の表面には、クモ膜という膜があり、
その更に外側には硬膜という膜があります。
その2つの膜の間には、
何かどろどろとした物質で満たされた空間があります。
年齢と共に、脳が萎縮すると、
クモ膜は下方に引っ張られるような形となり、
2つの膜の間にずれが生じやすくなります。
脳から出てくる静脈は、
その2つの膜の間を貫通する訳ですが、
それが引っ張られることで、
負荷が掛かると、
ちょっとした衝撃でも、
切れやすい状態になるのです。
ここで、激しくはなくとも頭をぶつけるような衝撃があると、
細い静脈が切れて、
小さな出血が起こります。
これが「慢性硬膜下血腫」のきっかけとなります。
小さい出血は止まりますが、
そこに傷を残します。
すると、血を固める働きと、その血を再び溶かす働きとが、
互いに強い状態が、
慢性に繰り返されます。
それが新しい出血を誘発し、
徐々に血の塊は大きくなって、
脳を圧迫して症状を出すのです。
これが現時点での、
「慢性硬膜下血腫」のメカニズムの仮説です。
MRIを撮れば、
ほぼ診断は確定しますが、
CTのみだと診断を誤ることがあります。
急性の出血は、
CTでは白く映るので、
間違いようがないのですが、
この場合はじわじわと出血が進行するので、
脳と同じくらいの濃度に映ることがあり、
また髄液と同じように見えることもあって、
ただの脳萎縮と、
間違えられることがあるのです。
特に認知症の進行した方では、
検査中に動いてしまったりされて、
条件の良い画像が撮れず、
診断の付かないケースもあります。
治療は手術が原則で、
通常局所麻酔でも可能な、
「穿頭血腫洗浄術」が広く行なわれています。
要するに穴を開け、
血を吸い出してしまうのです。
ガソリンのような色の血液が、
出て来ると言われています。
血を吸い出すだけなので、
当然再発するケースもあり、
その率は10パーセント程度と報告されています。
再発した場合には、
開頭手術が必要となるケースもあります。
そこで通常の外科的な治療に追加して、
中硬膜動脈という硬膜を栄養している動脈に、
特殊な物質をカテーテルで挿入して、
血流を遮断するという治療が試みられています。
本来動脈の血液が硬膜下に溜まることはない筈ですが、
異常血管が形成されてそこからの出血が、
慢性硬膜下血腫再発の一因となっていることが推測されているのです。
その効果はどの程度のものなのでしょうか?
今回の研究は世界中の複数の専門施設において、
310名の慢性硬膜下血腫の患者さんを登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は外科的治療を含む通常の治療のみを行い、
もう一方は通常の治療に併せて、
中硬膜動脈の塞栓術を施行して、
その予後を比較検証しています。
その結果、
登録後180日の時点での硬膜下血腫の再発もしくは残存、
180日以内の再手術や脳卒中などの発症を併せたリスクは、
通常治療群では36%に発症したのに対して、
中硬膜動脈塞栓症併用群では16%に留まり、
塞栓症の併用は再発などのリスクを、
64%(95%CI:0.20から0.66)有意に低下させていました。
合併症などの安全性については、
両群で明確な差は認められませんでした。
このように今回の検証においては、
最初から通常治療に加えてカテーテル塞栓術を併用することにより、
問題であった再発のリスクが、
安全性には大きな影響を与えない状態で低下しており、
今後慢性硬膜下血腫のスタンダードな治療として、
確立されることになるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2025年2月27日付で掲載された、
慢性硬膜下血腫の治療についての論文です。
「慢性硬膜下血腫」は、
高齢者に多い病気です。
60歳以上では、
人口10万人当たり、5人程度の発症率との、
報告がありますが、
実際には診断されない例もかなりあると思われ、
潜在的な患者さんの数は、
多分その統計の数倍はあると考えられます。
典型的な経過は軽い転倒などの後、
しばらくしてから歩行時のふらつきなどの症状が出現し、
脳に血種が確認されるというものです。
脳の表面には、クモ膜という膜があり、
その更に外側には硬膜という膜があります。
その2つの膜の間には、
何かどろどろとした物質で満たされた空間があります。
年齢と共に、脳が萎縮すると、
クモ膜は下方に引っ張られるような形となり、
2つの膜の間にずれが生じやすくなります。
脳から出てくる静脈は、
その2つの膜の間を貫通する訳ですが、
それが引っ張られることで、
負荷が掛かると、
ちょっとした衝撃でも、
切れやすい状態になるのです。
ここで、激しくはなくとも頭をぶつけるような衝撃があると、
細い静脈が切れて、
小さな出血が起こります。
これが「慢性硬膜下血腫」のきっかけとなります。
小さい出血は止まりますが、
そこに傷を残します。
すると、血を固める働きと、その血を再び溶かす働きとが、
互いに強い状態が、
慢性に繰り返されます。
それが新しい出血を誘発し、
徐々に血の塊は大きくなって、
脳を圧迫して症状を出すのです。
これが現時点での、
「慢性硬膜下血腫」のメカニズムの仮説です。
MRIを撮れば、
ほぼ診断は確定しますが、
CTのみだと診断を誤ることがあります。
急性の出血は、
CTでは白く映るので、
間違いようがないのですが、
この場合はじわじわと出血が進行するので、
脳と同じくらいの濃度に映ることがあり、
また髄液と同じように見えることもあって、
ただの脳萎縮と、
間違えられることがあるのです。
特に認知症の進行した方では、
検査中に動いてしまったりされて、
条件の良い画像が撮れず、
診断の付かないケースもあります。
治療は手術が原則で、
通常局所麻酔でも可能な、
「穿頭血腫洗浄術」が広く行なわれています。
要するに穴を開け、
血を吸い出してしまうのです。
ガソリンのような色の血液が、
出て来ると言われています。
血を吸い出すだけなので、
当然再発するケースもあり、
その率は10パーセント程度と報告されています。
再発した場合には、
開頭手術が必要となるケースもあります。
そこで通常の外科的な治療に追加して、
中硬膜動脈という硬膜を栄養している動脈に、
特殊な物質をカテーテルで挿入して、
血流を遮断するという治療が試みられています。
本来動脈の血液が硬膜下に溜まることはない筈ですが、
異常血管が形成されてそこからの出血が、
慢性硬膜下血腫再発の一因となっていることが推測されているのです。
その効果はどの程度のものなのでしょうか?
今回の研究は世界中の複数の専門施設において、
310名の慢性硬膜下血腫の患者さんを登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は外科的治療を含む通常の治療のみを行い、
もう一方は通常の治療に併せて、
中硬膜動脈の塞栓術を施行して、
その予後を比較検証しています。
その結果、
登録後180日の時点での硬膜下血腫の再発もしくは残存、
180日以内の再手術や脳卒中などの発症を併せたリスクは、
通常治療群では36%に発症したのに対して、
中硬膜動脈塞栓症併用群では16%に留まり、
塞栓症の併用は再発などのリスクを、
64%(95%CI:0.20から0.66)有意に低下させていました。
合併症などの安全性については、
両群で明確な差は認められませんでした。
このように今回の検証においては、
最初から通常治療に加えてカテーテル塞栓術を併用することにより、
問題であった再発のリスクが、
安全性には大きな影響を与えない状態で低下しており、
今後慢性硬膜下血腫のスタンダードな治療として、
確立されることになるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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