KERA CROSS 第六弾「消失」(2025年河原雅彦演出版)
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

ケラさんが2004年に紀伊国屋ホールで初演し、
2015年に再演した「消失」が、
今回KERA CROSS 第六弾として、
河原雅彦さんの演出で装いも新たに上演されています。
東京公演は本日までですね。
この作品は初演も最初の再演も観ています。
終末戦争後の荒廃した世界を舞台に、
浮世離れした不思議な兄弟が抱える秘密を軸として、
6人のキャストが絡み合う濃密なドラマが展開します。
ケラさんとしては、
かなりシリアスに振れた1本で、
特に後半はショッキングなシーンも多く、
6人のキャストの全てが悲惨な末路を迎えるという、
観劇後に後を引くような、
ダークでディープなお芝居です。
初演は主人公の兄弟を、
大倉孝二さんとみのすけさんが演じ、
関係する2人の女性を、
犬山イヌコさんと松永玲子さん、
怪しい医者を三宅弘城さん、
謎の水道修理人を八嶋智人さん、
というキャストでした。
ご覧になった方は分かるように、
完全なあて書きで、
ナイロン100℃のベストメンバーです。
ただ、初演時の感想としては、
せっかく最強メンバーが揃ったので、
笑って笑って笑いまくるような、
ナンセンスコメディの方が良かったな、
というような気分を拭うことが出来ず、
後半は特にかなりしんどい観劇体験になりました。
もっと率直に言えば、
うとうとしてしまったのです。
これはでも役者のお芝居はとても見応えがありました。
みのすけさんの(良い意味での)「気持ちの悪さ」が、
42歳で心は子供、という役柄に、
とてもフィットしていましたし、
それを庇護する大倉さんの兄の必死さにも味がありました。
この2人がクリスマスの飾りつけを、
嬉々としてするところの不気味さに、
この作品のポイントの1つがあるのです。
また犬山イヌコさんの演じたスワンレイクの、
こちらも子供じみた態度の裏に、
老醜が感じられるような切なさが、
こちらも奥行がある演技でした。
要するに、
それまでギャグで子供役をやっていた面々に、
実年齢で子供を演じるという、
歪な不気味さを演じさせているのです。
ケラさんのある種の意地悪さのようなものが、
そこに見え隠れしているような気もします。
ですから、このお芝居を他のキャストで演じるというのは、
かなりハードルの高いことなのですね。
そこで今回演出の河原さんは、
キャストを一新してそのイメージも一新、
大人が子供を演じる不気味さではなく、
もっと同時代的なドラマとして、
ストーリーを語ることを前面に押し出して、
この作品を構成しています。
演出はケラさんに似た部分もあるのですが、
より小劇場的で、アングラチックになっていて、
ケラ版の残酷な童話のような透明感よりも、
グロテスクと残酷趣味に振っています。
それが今回かなり成功していて、
シンプルにストーリーの面白さを、
感じられる作品に仕上がっていました。
ケラ演出は台詞のリズムを、
長い間合いで切り刻むようなところがあるのですが、
河原さんは台詞をつなげてグイグイと押して来るので、
上演時間はケラ版と変われないのですが、
遥かにストレスなく観ることが出来ました。
中段で水道から歯が出て来る辺りから、
そこでもう悪夢的な雰囲気、
何か悪いことが起こる、何か秘められた悪いものが露になる、
という雰囲気が自然と醸成されるので、
その後はノンストップで悪夢の世界に身を委ねることが出来ます。
前述のように、
オリジナルにあった1つの趣向は犠牲にしているのですが、
その代わりに、
物語の真価のようなものは、
より明確になった上演であったような気がします。
キャストがまた皆好演で、
藤井隆さんの兄の振幅の大きさは、
後半に明らかとなる秘密に、
説得力を与えていたと思いますし、
弟を演じた入野自由さんの繊細さは、
ちょっと「アルジャーノンに花束を」を思わせるような、
純粋さの悲劇を感じさせる力演でした。
女優陣の2人がまた良くて、
猫背椿さんはコミカルさとリアルさの配分が絶妙で、
佐藤仁美さんのスワンレイクは、
犬山イヌコさんの同役よりも、
無残な哀れさを強く感じさせる、
凄味のあるものでした。
そんな訳で非常に分かり易く、
原作の壮絶さを小劇場的に巧みに表現した力作で、
キャストも演出もとても良い仕事をした、
という気がします。
ただ、これだけ初演と違っていても、
また別種の魅力があるという辺りに、
ケラさんの劇作の素晴らしさを、
再認識させられた思いがしました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

ケラさんが2004年に紀伊国屋ホールで初演し、
2015年に再演した「消失」が、
今回KERA CROSS 第六弾として、
河原雅彦さんの演出で装いも新たに上演されています。
東京公演は本日までですね。
この作品は初演も最初の再演も観ています。
終末戦争後の荒廃した世界を舞台に、
浮世離れした不思議な兄弟が抱える秘密を軸として、
6人のキャストが絡み合う濃密なドラマが展開します。
ケラさんとしては、
かなりシリアスに振れた1本で、
特に後半はショッキングなシーンも多く、
6人のキャストの全てが悲惨な末路を迎えるという、
観劇後に後を引くような、
ダークでディープなお芝居です。
初演は主人公の兄弟を、
大倉孝二さんとみのすけさんが演じ、
関係する2人の女性を、
犬山イヌコさんと松永玲子さん、
怪しい医者を三宅弘城さん、
謎の水道修理人を八嶋智人さん、
というキャストでした。
ご覧になった方は分かるように、
完全なあて書きで、
ナイロン100℃のベストメンバーです。
ただ、初演時の感想としては、
せっかく最強メンバーが揃ったので、
笑って笑って笑いまくるような、
ナンセンスコメディの方が良かったな、
というような気分を拭うことが出来ず、
後半は特にかなりしんどい観劇体験になりました。
もっと率直に言えば、
うとうとしてしまったのです。
これはでも役者のお芝居はとても見応えがありました。
みのすけさんの(良い意味での)「気持ちの悪さ」が、
42歳で心は子供、という役柄に、
とてもフィットしていましたし、
それを庇護する大倉さんの兄の必死さにも味がありました。
この2人がクリスマスの飾りつけを、
嬉々としてするところの不気味さに、
この作品のポイントの1つがあるのです。
また犬山イヌコさんの演じたスワンレイクの、
こちらも子供じみた態度の裏に、
老醜が感じられるような切なさが、
こちらも奥行がある演技でした。
要するに、
それまでギャグで子供役をやっていた面々に、
実年齢で子供を演じるという、
歪な不気味さを演じさせているのです。
ケラさんのある種の意地悪さのようなものが、
そこに見え隠れしているような気もします。
ですから、このお芝居を他のキャストで演じるというのは、
かなりハードルの高いことなのですね。
そこで今回演出の河原さんは、
キャストを一新してそのイメージも一新、
大人が子供を演じる不気味さではなく、
もっと同時代的なドラマとして、
ストーリーを語ることを前面に押し出して、
この作品を構成しています。
演出はケラさんに似た部分もあるのですが、
より小劇場的で、アングラチックになっていて、
ケラ版の残酷な童話のような透明感よりも、
グロテスクと残酷趣味に振っています。
それが今回かなり成功していて、
シンプルにストーリーの面白さを、
感じられる作品に仕上がっていました。
ケラ演出は台詞のリズムを、
長い間合いで切り刻むようなところがあるのですが、
河原さんは台詞をつなげてグイグイと押して来るので、
上演時間はケラ版と変われないのですが、
遥かにストレスなく観ることが出来ました。
中段で水道から歯が出て来る辺りから、
そこでもう悪夢的な雰囲気、
何か悪いことが起こる、何か秘められた悪いものが露になる、
という雰囲気が自然と醸成されるので、
その後はノンストップで悪夢の世界に身を委ねることが出来ます。
前述のように、
オリジナルにあった1つの趣向は犠牲にしているのですが、
その代わりに、
物語の真価のようなものは、
より明確になった上演であったような気がします。
キャストがまた皆好演で、
藤井隆さんの兄の振幅の大きさは、
後半に明らかとなる秘密に、
説得力を与えていたと思いますし、
弟を演じた入野自由さんの繊細さは、
ちょっと「アルジャーノンに花束を」を思わせるような、
純粋さの悲劇を感じさせる力演でした。
女優陣の2人がまた良くて、
猫背椿さんはコミカルさとリアルさの配分が絶妙で、
佐藤仁美さんのスワンレイクは、
犬山イヌコさんの同役よりも、
無残な哀れさを強く感じさせる、
凄味のあるものでした。
そんな訳で非常に分かり易く、
原作の壮絶さを小劇場的に巧みに表現した力作で、
キャストも演出もとても良い仕事をした、
という気がします。
ただ、これだけ初演と違っていても、
また別種の魅力があるという辺りに、
ケラさんの劇作の素晴らしさを、
再認識させられた思いがしました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
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