認知症を疑う最も初期症状は何か?

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症の前兆は?.jpg
Neurology誌に2024年11月6日付で掲載された、
認知症の初期症状についての論文です。

認知症には抗体製剤などの新薬も導入され、
その治療はなるべく早期に開始することが、
その予後の改善に結び付く、
という知見が積み重ねられています。

そのためには、
なるべく早く初期の認知症を診断する必要があります。

ただ、加齢とともに、
脳の働きが低下すること自体は生理的な現象で、
病気ではありませんから、
生理的な脳の機能の低下と、
病的な認知症とを、
どのように鑑別するのかが、
大きな問題となります。

アルツハイマー病などについては、
初期診断のための検査などが開発はされていますが、
非常に高額で特殊な検査であったり、
背中に針を刺すなど、
患者さんへの負担も大きい検査であったりと、
現時点で全ての認知症疑いの患者さんに、
そうした検査を施行することは現実的ではありません。

認知症の初期症状として、
必ず言われることのあるのは「物忘れ」ですが、
それ自体は生理的な加齢現象でも生じる性質のもので、
その初期の段階で、
加齢による生理的な物忘れと、
認知症に伴う進行性の物忘れとを、
症状のみから見分けることは簡単ではありません。

それでは、
何か物忘れ以外に、
認知症の初期を疑う症状はないのでしょうか?

最近注目されている考え方の1つに、
運動認知リスク症候群(Motoric Cognitive Risk Syndrome)があります。

これは物忘れなどの軽度の認知機能低下と、
歩行速度の低下が見られた時に、
その後認知機能低下が進行して、
認知症に移行しやすい、
という考え方です。

2014年のNeurology誌に掲載された論文によると、
運動認知リスク症候群では、
その後の認知症リスクが2倍に高まると報告されています。
https://www.neurology.org/doi/abs/10.1212/WNL.0000000000000717

つまり、
運動認知リスク症候群は、
認知症の前兆というようにも考えられるのです。

歩行速度以外に、
認知症の随伴症状として指摘されることが多いのは、
睡眠の質などの眠りの異常です。

ただ、運動認知リスク症候群と睡眠の質とが、
認知症の初期の兆候として、
互いにどのような関連を持っているのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
65歳以上で認知症のない445名と登録し、
睡眠の状態と運動認知リスク症候群が、
その後の認知症の進行と、
どのような関連を持っているのかを検証しています。

その結果、中央値で2.9年の観察期間において、
睡眠の質のうち、
昼間の眠気と意欲の低下があると、
その後に運動認知リスク症候群と診断されるリスクが、
関連する因子を補正した結果として、
3.3倍(95%CI:1.5から7.4)有意に増加していることが確認されました。
一方で登録の時点で運動認知リスク症候群の状態にあると、
昼間の眠気と意欲低下は、
運動認知リスク症候群と明確な関連を示しませんでした。

運動認知リスク症候群と睡眠の質との間に、
どのような関係があるのかはまだ不明ですが、
両者には一定の関連があり、
特に昼間の眠気や意欲低下などの症状があって、
その後に物忘れや歩行速度の低下が見られた時には、
認知症へと進行する可能性が高いと考えて、
適切な対応を取る必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

この記事へのコメント