大腸癌検診の有効性比較(2024年アメリカの解析データ)
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Annals of Internal Medicine誌に、
2024年10月29日付で掲載された、
大腸癌のスクリーニング法を比較検証した論文です。
大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。
現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。
この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。
また大腸内視鏡検査については、
強力に下剤を使わないといけない点、
稀ですが穿孔や出血などの合併症が生じることのある点、
ある程度の体力が必要とされる検査である点など、
必ずしも必要とされる人の全てが、
受けることの可能な検査ではない、
という欠点があります。
そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。
その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。
代表的な方法の1つは癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。
細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。
この検査は、
「Shield
大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。
ちなみにアメリカでの定価は1495ドルです。
その後同様の商品が、
別のアメリカのバイオ企業Freenome社からも発売されています。
日本では市町村などの検診レベルでは、
こうした遺伝子検査は導入はされていませんが、
アメリカの健康保険組合は、
一定の基準を満たし、FDA(アメリカ食品医療品局)が認可した遺伝子検査を、
3年毎に行うことを大腸癌のスクリーニングとして認めています。
https://www.cms.gov/medicare-coverage-database/view/ncacal-decision-memo.aspx?proposed=N&NCAId=299
そしてFDAは、
2024年の7月に前述のシールド検査を、
正式に大腸癌スクリーニングとして認可しています。
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpma/pma.cfm?id=P230009
しかし、非常に高額なこの検査を導入することで、
検診を受ける人に実際にどの程度の効果があるのでしょうか?
今回の研究では、
これまでの臨床データをまとめて解析する手法で、
大腸内視鏡検査を10年毎に施行する方法と、
1から3年毎に便潜血検査を施行して、
異常があれば精密検査を施行する方法、
そして3年毎に血液の癌由来遺伝子検査を施行する方法の、
3種類の有効性を比較検証しています。
血液検査はシールド検査もしくはFreenome社の検査が対象となっています。
(本文には便の遺伝子検査も対象となっていますが、
複雑になるのでこの解説では割愛しています)
その結果3種類の方法のいずれもが、
検診を受けない場合と比較して、
大腸癌の罹患率も、大腸癌による死亡のリスクも、
低下させていることが確認されました。
検診にも活用されているシールドテストについては、
アメリカでは1495ドルのコストが掛かり、
健康寿命を1年延ばすために、
89600ドルが必要という試算になりました。
これは10万ドル以下であれば、
一定の経済的妥当性がある医療行為である、
とされていますから、
ギリギリそれを満たしている、という言い方が出来そうです。
ただ、これは3年毎に検査を施行するとしての試算ですが、
仮に便潜血検査や大腸内視鏡検査での検診を問題なく行っている人が、
3年毎の血液検査の検診に変更すると、
それにより大腸癌の死亡リスクは、
増加することになると推計されています。
これを回避するには、
血液検査の頻度を1から2年に1回に短縮する必要がありますが、
そうすると健康寿命を1年延ばすコストは、
10万ドルを優に超えますから、
この方法は経済的に見合わない、
という言い方が出来そうです。
大腸癌は遺伝子変異が積み重なって、
ある程度の時間を掛けて発症するものですから、
3年程度の間隔で遺伝子検査を施行して、
癌由来の遺伝子が検出されれば、
そのタイミングで大腸ファイバーを施行して癌を診断する、
という考え方は非常に理に適っているという気はします。
ただ、現状の血液検査を利用して、
そうした検診を行った場合、
実際には従来の検診より大腸癌による死亡は増え、
コストもより掛かるという結果が推計されています。
これはおそらく検査の精度の問題と、
その高額な費用の問題が影響していると考えられ、
安易に新しい検査に飛びつくのではなく、
その実態を良く検証した上で、
適切な検診の実施につなげる必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Annals of Internal Medicine誌に、
2024年10月29日付で掲載された、
大腸癌のスクリーニング法を比較検証した論文です。
大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。
現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。
この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。
また大腸内視鏡検査については、
強力に下剤を使わないといけない点、
稀ですが穿孔や出血などの合併症が生じることのある点、
ある程度の体力が必要とされる検査である点など、
必ずしも必要とされる人の全てが、
受けることの可能な検査ではない、
という欠点があります。
そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。
その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。
代表的な方法の1つは癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。
細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。
この検査は、
「Shield
![[レジスタードトレードマーク]](https://blog.seesaa.jp/images_e/219.gif)
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。
ちなみにアメリカでの定価は1495ドルです。
その後同様の商品が、
別のアメリカのバイオ企業Freenome社からも発売されています。
日本では市町村などの検診レベルでは、
こうした遺伝子検査は導入はされていませんが、
アメリカの健康保険組合は、
一定の基準を満たし、FDA(アメリカ食品医療品局)が認可した遺伝子検査を、
3年毎に行うことを大腸癌のスクリーニングとして認めています。
https://www.cms.gov/medicare-coverage-database/view/ncacal-decision-memo.aspx?proposed=N&NCAId=299
そしてFDAは、
2024年の7月に前述のシールド検査を、
正式に大腸癌スクリーニングとして認可しています。
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpma/pma.cfm?id=P230009
しかし、非常に高額なこの検査を導入することで、
検診を受ける人に実際にどの程度の効果があるのでしょうか?
今回の研究では、
これまでの臨床データをまとめて解析する手法で、
大腸内視鏡検査を10年毎に施行する方法と、
1から3年毎に便潜血検査を施行して、
異常があれば精密検査を施行する方法、
そして3年毎に血液の癌由来遺伝子検査を施行する方法の、
3種類の有効性を比較検証しています。
血液検査はシールド検査もしくはFreenome社の検査が対象となっています。
(本文には便の遺伝子検査も対象となっていますが、
複雑になるのでこの解説では割愛しています)
その結果3種類の方法のいずれもが、
検診を受けない場合と比較して、
大腸癌の罹患率も、大腸癌による死亡のリスクも、
低下させていることが確認されました。
検診にも活用されているシールドテストについては、
アメリカでは1495ドルのコストが掛かり、
健康寿命を1年延ばすために、
89600ドルが必要という試算になりました。
これは10万ドル以下であれば、
一定の経済的妥当性がある医療行為である、
とされていますから、
ギリギリそれを満たしている、という言い方が出来そうです。
ただ、これは3年毎に検査を施行するとしての試算ですが、
仮に便潜血検査や大腸内視鏡検査での検診を問題なく行っている人が、
3年毎の血液検査の検診に変更すると、
それにより大腸癌の死亡リスクは、
増加することになると推計されています。
これを回避するには、
血液検査の頻度を1から2年に1回に短縮する必要がありますが、
そうすると健康寿命を1年延ばすコストは、
10万ドルを優に超えますから、
この方法は経済的に見合わない、
という言い方が出来そうです。
大腸癌は遺伝子変異が積み重なって、
ある程度の時間を掛けて発症するものですから、
3年程度の間隔で遺伝子検査を施行して、
癌由来の遺伝子が検出されれば、
そのタイミングで大腸ファイバーを施行して癌を診断する、
という考え方は非常に理に適っているという気はします。
ただ、現状の血液検査を利用して、
そうした検診を行った場合、
実際には従来の検診より大腸癌による死亡は増え、
コストもより掛かるという結果が推計されています。
これはおそらく検査の精度の問題と、
その高額な費用の問題が影響していると考えられ、
安易に新しい検査に飛びつくのではなく、
その実態を良く検証した上で、
適切な検診の実施につなげる必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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