EPA製剤の心房細動リスクについて

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
EPAの心房細動リスク.jpg
2024年11月13日付で、
厚労省はEPA製剤の添付文書の改訂指示を出しました。
重大な副作用の項に「心房細動、心房粗動」の病名が追加されたのです。

EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分が不足していると、
心血管疾患のリスクが高まる、
という点はほぼ間違いのない事実です。

ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。

日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。

エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
という結果が得られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398308/

ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。

しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/

その一方で、2020年のJAMA誌に掲載された、
EPAなどのオメガ3系脂肪酸を、
コーン油と比較したスタチンへの上乗せ試験では、
オメガ3系脂肪酸にコーン油を上回る有効性は確認されませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33190147/

このようにスタチンの上乗せでEPA製剤に有効性があるかどうかも、
まだ一致した結論には到っていないのです。

国産のデータでは、
Circulation誌に2024年6月14日付で掲載された、
青身魚に多く含まれる脂肪酸の、
心血管疾患に対する有効性についての論文があり、
日本の複数施設において、
虚血性心疾患で治療中でスタチンを使用しており、
更に血液の脂肪酸組成で、
動脈硬化を進行させる可能性が高いアラキドン酸に対して、
EPAが比較的低値(EPA/AA比が0.4未満)の対象者に対して、
純度の高いEPA製剤を使用したところ、
心臓突然死と急性心筋梗塞、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクが、
EPA使用群で未使用群と比較して、
27%有意に低下したという結果が発表されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

ただ、このNEJM誌とCirculation誌の論文において、
少し気になる点があるのは、
いずれの論文においても、
EPA製剤の使用群において、
心房細動の発症リスクが、
未使用と比較して高くなっていたことです。
具体的にはNEJM論文で3.1% vs 2.1%、
Circulation論文で3.1% vs 1.6%でした。

このデータに説得力があるのは、
完全に別個に施行された精度の高い臨床データにおいて、
ほぼほぼ同一の結果が得られているためです。

ただ、どちらの論文においても、
そのメカニズムについての記載はなく、
現時点では理由は不明ということであるようです。

いずれにしても、
純度の高いEPA製剤をスタチンと併用で、
高用量で使用する際には、
心房細動の発症リスクがやや増加する可能性のあることを、
織り込んで考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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