アルツハイマー型認知症に対するコリンエステラーゼ阻害剤の治療効果の差

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症の治療効果の差.jpg
Aging Medicine誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
現行の治療薬による認知症の治療効果の差についての論文です。

新薬の使用などが徐々に始まってはいますが、
現在の認知症治療の主体は、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
というタイプの薬剤です。

ドネペジル(アリセプト)はその代表で、
他に少しずつ性質や作用の異なる薬がありますが、
その基本的な性質は同じです。

アセチルコリンは脳の神経伝達物質の1つで、
認知症においてその働きが低下するため、
アセチルコリンの分解を抑える薬を使用して、
認知症の進行を抑止しよう、というのが、
その主なメカニズムです。

このタイプの薬は認知症そのものを改善する効果はありませんが、
認知症に伴う症状を軽減し、
その進行を緩やかにする効果のあることは、
多くの精度の高い臨床試験において確認されています。

ただ、同じようにこうした薬を使用していても、
その効果は患者さんによって様々で、
薬の効果で病状の進行があまり見られない、
という患者さんがいる一方で、
薬を使用していても、
急速に病状が進行するというケースもあります。

それでは、
どのような患者さんでこうした薬は有効で、
どのような患者さんで無効なのでしょうか?

それがある程度推測可能であれば、
治療方針の選択や、
病状経過や予後を予測する意味で、
有益な情報が得られることは間違いがありません。

今回の研究は台湾において、
単独の医療施設のカルテデータを解析して、
コリンエステラーゼ阻害剤の治療効果に与える、
個別の患者背景を検証しています。

対象は新たにアルツハイマー型認知症と診断されて、
コリンエステラーゼ阻害剤による治療を新たに開始した、
トータル1370名の患者で、
1年の治療の経過後に、
認知機能が明確に低下した事例と、
それに影響を与えた因子を解析しています。

認知機能の低下は、
MMSEという認知症の臨床指標がが3点以上、
もしくはCDRという指標が1点以上、
それぞれ低下したことで判定しています。

その結果、
対象者のうち854名は認知機能の明確な低下はなく、
516名は治療後1年で認知機能が明確に低下していました。

そして、
関連する他の因子を補正した結果、
認知機能低下群では体格の指標であるBMIが有意に低く、
抗精神病薬の使用は認知機能低下群で有意に高くなっていました。
またベンゾジアゼピンの使用も、
有意ではないものの認知機能低下群で高い傾向がありました。

今回のデータはまだ確定的なものではありませんが、
認知症で治療を施行している場合には、
抗精神病薬やベンゾジアゼピン系の薬剤の使用は、
より慎重な対応が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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