喘息様気管支炎を繰り返すお子さんへの早期抗生物質治療の効果
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

今年のJAMA誌に掲載された、
風邪をこじらせて一時的な喘息発作を起こし易いお子さんに、
症状が悪化しない前に抗生物質を使用した場合の、
その効果と安全性についての論文です。
お子さんが風邪をこじらせて、
咳込みとゼーゼーがなかなかおさまらない、
という状態は、
多くのお母さんお父さんが経験する、
一般的な症状です。
こうした症状は、
海外の統計では生まれてから6歳までに、
お子さんの14から26%に発症しているそうです。
お子さんの呼吸状態が悪く、
咳込みが続いてゼコゼコも続いている、
ということは、
下気道感染症が起こっている、ということになります。
咽喉の声帯や喉頭と呼ばれる部分より上の炎症を、
上気道炎と呼び、
それより下の炎症を下気道炎と呼びます。
そして、更に炎症が奥に入って、
肺の実質が炎症を起こした状態が肺炎です。
通常の風邪というのは、
ウイルスが原因による上気道炎がその主体ですが、
前述のように下気道炎に移行し易いお子さんもいます。
所謂「風邪をこじらせた」という状態ですが、
多くの風邪が上気道炎のみで回復するのに、
何故一部の風邪が下気道炎になり、
しかも繰り返しやすいお子さんがいるのか、
という点については、
必ずしも明確なことが分かっていません。
下気道炎の炎症部位からは、
風邪にウイルスや細菌などが多く検出されます。
喘息のお子さんの急性増悪というのは、
これに非常に似た病態ですが、
この時にも肺炎球菌のような細菌や、
ライノウイルスのようなウイルスの感染が、
引き金としての役割を持っていると言われています。
また、RSウイルスのように、
下気道炎や肺炎を急性に起こし易い病原体、
というものも存在しています。
テリスロマイシンという抗生物質を、
急性の喘息発作の発症24時間以内に使用すると、
気道から検出された細菌の種別には関わらず、
発作の予後が改善したという報告が、
2006年のNew England…誌に掲載されています。
この薬剤はマクロライド系と呼ばれる抗生物質に近い性質を持ち、
広くマクロライド系の抗生物質には、
ある種の免疫や炎症の調整作用があって、
下気道感染症の増悪を予防する効果があるのでは、
ということを示唆するデータが他にも複数存在しています。
通常「風邪症状に抗生物質を使うのは悪い治療で、
そんな処方をするのはヤブ医者だ」
とテレビや本などでは言われています。
勿論ウイルス感染による上気道炎には、
抗生物質は無効で、
耐性菌を誘導するような悪影響もあるので、
その意見は誤りではありません。
その理屈で、
喘息様気管支炎を繰り返しているようなお子さんを診ると、
悪化する前にはただの風邪症状ですから、
抗生物質は使用しない、ということになり、
悪化して悪い状態になってから、
培養などの検査を行なって、
初めて抗生物質を使用する、
という段取りになります。
しかし、
前述のように下気道感染への移行や悪化を、
早期にマクロライド系の抗生物質を使用することにより、
予防することが可能であるとしたら、
こうした診療では、
抗生物質を使用するタイミングが、
結果として遅すぎる、ということになってしまいます。
それでは、
これまでに下気道炎を繰り返しているようなお子さんに限り、
まだ下気道感染には移行していない早期の段階で、
マクロライド系の抗生物質を使用することで、
その後の増悪を防ぐことが可能となるのではないでしょうか?
今回の研究はその仮説の元に、
アメリカの9箇所の専門施設において、
年齢が生後12ヶ月から71ヶ月までの、
それまでに下気道感染を繰り返しているお子さん、
トータル607名を、
家族や主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分け、
一方はアジスロマイシン(商品名ジスロマック)を、
家族がこれまでの増悪時の初期を思わせる症状が出現した時点で、
一定期間使用し、
もう一方は同じ家族の判断で、
偽薬を使用して、
12から18ヶ月間の経過観察を行なっています。
これは予め薬を家族に渡しておいて、
どのような症状が出た時点で使用するかを、
個々に主治医と決めておき、
その時点で家族の判断で使用する、
という手法で行われます。
「いつもこじらせる前には夜中の咳が出る」
ということであれば、
夜中の咳の時点で薬を使うのです。
アジスロマイシンは1キロ当たり12ミリグラムを、
上限は500ミリグラムとして、
5日間使用します。
この量は1日量は日本とほぼ同じですが、
日本では3日間しか使用が認められていません。
その結果…
トータル607名中、
アジスロマイシン群は307名で偽薬群は300名です。
全体で処方が行われたのは937件で、
アジスロマイシン群が473件、偽薬群が464件でした。
このうち重篤な下気道炎に移行したのは、
アジスロマイシン群の35件と、偽薬群の57件で、
アジスロマイシンの使用により、
重篤な下気道感染は36%有意に低下した、
という結果になっています。
(hazard ratio:0.64 95%CI :0.41から0.98)
有害事象や耐性誘導については、
明確な差は認められていません。
ポイントとしては、中身の分析において、
特に下気道感染を繰り返しているお子さんほど、
その予防効果は高くなっていました。
観察期間中に1回しかそうした増悪のないお子さんでは、
それほどの差は付いていないので、
トータルには95%CIはかなり幅広い結果となっているのです。
従って、調査方法も厳密ですし、
こうした治療に増悪予防効果のあること自体は、
かなりクリアに証明されていると思います。
つまり、
風邪をこじらせてゼコゼコを繰り返しているような、
小学校入学前くらいのお子さんでは、
まだ悪くなる前の風邪症状の段階で、
アジスロマイシンを使用することは、
その後の増悪を予防する意味で、
一定の効果が期待出来るという結果です。
よく、
「悪くならないように早めに抗生物質を使いましょう」
というのは、
ヤブ医者の口癖であるかのように言われることがあるのですが、
こうしたやり方が経験的に行われて来たのは、
それが有効なケースが、
少なからずあるからで、
勿論抗生物質の濫用は慎むべきですが、
どのような場合に早期の抗生物質使用が、
風邪症状の場合に有効であるか、
という点については、
より科学的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

今年のJAMA誌に掲載された、
風邪をこじらせて一時的な喘息発作を起こし易いお子さんに、
症状が悪化しない前に抗生物質を使用した場合の、
その効果と安全性についての論文です。
お子さんが風邪をこじらせて、
咳込みとゼーゼーがなかなかおさまらない、
という状態は、
多くのお母さんお父さんが経験する、
一般的な症状です。
こうした症状は、
海外の統計では生まれてから6歳までに、
お子さんの14から26%に発症しているそうです。
お子さんの呼吸状態が悪く、
咳込みが続いてゼコゼコも続いている、
ということは、
下気道感染症が起こっている、ということになります。
咽喉の声帯や喉頭と呼ばれる部分より上の炎症を、
上気道炎と呼び、
それより下の炎症を下気道炎と呼びます。
そして、更に炎症が奥に入って、
肺の実質が炎症を起こした状態が肺炎です。
通常の風邪というのは、
ウイルスが原因による上気道炎がその主体ですが、
前述のように下気道炎に移行し易いお子さんもいます。
所謂「風邪をこじらせた」という状態ですが、
多くの風邪が上気道炎のみで回復するのに、
何故一部の風邪が下気道炎になり、
しかも繰り返しやすいお子さんがいるのか、
という点については、
必ずしも明確なことが分かっていません。
下気道炎の炎症部位からは、
風邪にウイルスや細菌などが多く検出されます。
喘息のお子さんの急性増悪というのは、
これに非常に似た病態ですが、
この時にも肺炎球菌のような細菌や、
ライノウイルスのようなウイルスの感染が、
引き金としての役割を持っていると言われています。
また、RSウイルスのように、
下気道炎や肺炎を急性に起こし易い病原体、
というものも存在しています。
テリスロマイシンという抗生物質を、
急性の喘息発作の発症24時間以内に使用すると、
気道から検出された細菌の種別には関わらず、
発作の予後が改善したという報告が、
2006年のNew England…誌に掲載されています。
この薬剤はマクロライド系と呼ばれる抗生物質に近い性質を持ち、
広くマクロライド系の抗生物質には、
ある種の免疫や炎症の調整作用があって、
下気道感染症の増悪を予防する効果があるのでは、
ということを示唆するデータが他にも複数存在しています。
通常「風邪症状に抗生物質を使うのは悪い治療で、
そんな処方をするのはヤブ医者だ」
とテレビや本などでは言われています。
勿論ウイルス感染による上気道炎には、
抗生物質は無効で、
耐性菌を誘導するような悪影響もあるので、
その意見は誤りではありません。
その理屈で、
喘息様気管支炎を繰り返しているようなお子さんを診ると、
悪化する前にはただの風邪症状ですから、
抗生物質は使用しない、ということになり、
悪化して悪い状態になってから、
培養などの検査を行なって、
初めて抗生物質を使用する、
という段取りになります。
しかし、
前述のように下気道感染への移行や悪化を、
早期にマクロライド系の抗生物質を使用することにより、
予防することが可能であるとしたら、
こうした診療では、
抗生物質を使用するタイミングが、
結果として遅すぎる、ということになってしまいます。
それでは、
これまでに下気道炎を繰り返しているようなお子さんに限り、
まだ下気道感染には移行していない早期の段階で、
マクロライド系の抗生物質を使用することで、
その後の増悪を防ぐことが可能となるのではないでしょうか?
今回の研究はその仮説の元に、
アメリカの9箇所の専門施設において、
年齢が生後12ヶ月から71ヶ月までの、
それまでに下気道感染を繰り返しているお子さん、
トータル607名を、
家族や主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分け、
一方はアジスロマイシン(商品名ジスロマック)を、
家族がこれまでの増悪時の初期を思わせる症状が出現した時点で、
一定期間使用し、
もう一方は同じ家族の判断で、
偽薬を使用して、
12から18ヶ月間の経過観察を行なっています。
これは予め薬を家族に渡しておいて、
どのような症状が出た時点で使用するかを、
個々に主治医と決めておき、
その時点で家族の判断で使用する、
という手法で行われます。
「いつもこじらせる前には夜中の咳が出る」
ということであれば、
夜中の咳の時点で薬を使うのです。
アジスロマイシンは1キロ当たり12ミリグラムを、
上限は500ミリグラムとして、
5日間使用します。
この量は1日量は日本とほぼ同じですが、
日本では3日間しか使用が認められていません。
その結果…
トータル607名中、
アジスロマイシン群は307名で偽薬群は300名です。
全体で処方が行われたのは937件で、
アジスロマイシン群が473件、偽薬群が464件でした。
このうち重篤な下気道炎に移行したのは、
アジスロマイシン群の35件と、偽薬群の57件で、
アジスロマイシンの使用により、
重篤な下気道感染は36%有意に低下した、
という結果になっています。
(hazard ratio:0.64 95%CI :0.41から0.98)
有害事象や耐性誘導については、
明確な差は認められていません。
ポイントとしては、中身の分析において、
特に下気道感染を繰り返しているお子さんほど、
その予防効果は高くなっていました。
観察期間中に1回しかそうした増悪のないお子さんでは、
それほどの差は付いていないので、
トータルには95%CIはかなり幅広い結果となっているのです。
従って、調査方法も厳密ですし、
こうした治療に増悪予防効果のあること自体は、
かなりクリアに証明されていると思います。
つまり、
風邪をこじらせてゼコゼコを繰り返しているような、
小学校入学前くらいのお子さんでは、
まだ悪くなる前の風邪症状の段階で、
アジスロマイシンを使用することは、
その後の増悪を予防する意味で、
一定の効果が期待出来るという結果です。
よく、
「悪くならないように早めに抗生物質を使いましょう」
というのは、
ヤブ医者の口癖であるかのように言われることがあるのですが、
こうしたやり方が経験的に行われて来たのは、
それが有効なケースが、
少なからずあるからで、
勿論抗生物質の濫用は慎むべきですが、
どのような場合に早期の抗生物質使用が、
風邪症状の場合に有効であるか、
という点については、
より科学的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
この記事へのコメント