ノロウイルスワクチンの話
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
New England Journal of Medicine誌の今月号に掲載された、
ノロウイルスワクチンについての、
実験的な論文です。

ノロウイルスの腸炎は、
伝染性が強く、
お子さんにも高齢者にも、
集団感染を起こして、
時には命に関わることもある、
重要な感染症です。
原因ウイルスはノロウイルスというRNAウイルスで、
その遺伝子の配列も判明はしていますが、
培養可能な細胞がなく、
動物には原則として感染しないので、
その感染の仕組みや身体の免疫の仕組みなどは、
まだ不明の点が多く残っています。
概ね一度自然に感染すると、
同種のタイプのウイルスに対する免疫が、
2年間程度は維持されるようですが、
そのタイプにより交差免疫が成立するかなど、
免疫の詳細は分かっていません。
ウイルスの蛋白質には8種類がありますが、
その役割もまだ不明の点が多いのです。
ただ、ノロウイルスの形を維持している、
キャプシド蛋白質VP1というものがあり、
このRNAを他の組み換えウイルスで発現させると、
あたかもノロウイルスと、
外見的には同じような粒子の構造を、
作ることが出来ることが分かりました。
これをウイルス様中空粒子
(Virus-like particles )と呼んでいます。
略してVLPです。
VLPはウイルスの紛い物です。
中身は空っぽで勿論感染力はありませんが、
表面の構造は維持されているので、
それを身体に反応させると、
身体はそれに対して、
不充分ながら免疫を誘導します。
このVLPを利用して、
多くのノロウイルスの免疫についての、
研究が行なわれています。
さて、このVLPというノロウイルスの偽者粒子が、
ワクチンとして使えるのではないか、
という考え方が生まれました。
ワクチンと同じ形をしていて、
一定の抗原性があるのですから、
これは結構有望なワクチンの材料になりそうです。
そこで今回の文献では、
このVLPに免疫増強剤のアジュバントを添加したものを、
経鼻ワクチンとして使用し、
その人間に対する効果を検討しています。
何故鼻の粘膜のワクチンにしたかと言えば、
ノロウイルスは小腸の粘膜に感染し、
粘膜の免疫系を誘導するので、
粘膜に接種するタイプのワクチンでないと、
その有効性は望めないからです。
口から投与すれば、
胃液などの消化液で分解され、
あまり有効な効果を示しません。
従って、鼻の粘膜に接種して、
鼻の粘膜での免疫を誘導しよう、
という発想になったのです。
昨日お話したように、
血液型の抗原が非分泌型の人では、
ノロウイルスの感染が起こり難いので、
遺伝子の検査を行なって、
予め非分泌型でない人を選択し、
98名の被験者の半数にはワクチンを接種し、
残りの半数には偽の点鼻だけを行ない、
免疫が誘導されたと思われる、
2回の接種後3週間のタイミングで、
VLPと共通の抗原性を持つノロウイルスを、
被験者に飲んでもらい、
その後の腸炎などの発症に、
差がないかどうかを検討したのです。
要するにノロウイルスを飲ませて、
ワクチンの予防効果を検証したもので、
ちょっと日本では絶対に出来ないタイプの、
相当ラジカルな人体実験です。
その結果…
ワクチン接種者の7割で、
免疫誘導の指標となる、
血液の特異的IgA抗体が検出されました。
そして胃腸炎は未接種者で69%が発症したのに対して、
ワクチン接種者では37%に抑制されました。
つまり、一定の予防効果が確認されたのです。
この予防効果は、
まだとても臨床には、
すぐ応用出来るレベルのものではありません。
実際に流行しているノロウイルスの感染を予防したのではなく、
同じ抗原性を持つウイルスに対する、
あくまで人工的な予防効果を見たものだからです。
その効果も、
確かに免疫誘導はありますが、
アジュバントを使用した割には、
自然免疫に比較しても、
かなり弱いレベルのものに留まっています。
論文の中にも書かれているように、
使用したアジュバント自体にも、
単独で若干の感染防御効果があるので、
それを勘案すると、
よりVLP単独の抗原性は弱いものに思えるのです。
しかし、今後のワクチン開発への、
道筋を付けた意味では意義のあるもので、
おそらくはこのVLPをベースにした、
ワクチンの開発が今後進んでゆくものと考えられます。
ロタウイルスには弱毒生ワクチンが、
日本でも使用が開始されていますが、
これはロタウイルスの構造が、
より明らかになっているからです。
ノロウイルスの構造にはまだ不明の点が多く、
その時点で生ワクチンを開発することは、
予期せぬ副反応のリスクを伴うのです。
このように、
非常に似通った症状を呈するウイルスではありますが、
ノロウイルスとロタウイルスとは、
その構造の面でも性質の面でも、
異なる点の方が多く、
その予防や治療においても、
別個の考え方が必要となるような気がします。
今日は開発途上のノロウイルスワクチンの話でした。
それでは今日このくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
New England Journal of Medicine誌の今月号に掲載された、
ノロウイルスワクチンについての、
実験的な論文です。

ノロウイルスの腸炎は、
伝染性が強く、
お子さんにも高齢者にも、
集団感染を起こして、
時には命に関わることもある、
重要な感染症です。
原因ウイルスはノロウイルスというRNAウイルスで、
その遺伝子の配列も判明はしていますが、
培養可能な細胞がなく、
動物には原則として感染しないので、
その感染の仕組みや身体の免疫の仕組みなどは、
まだ不明の点が多く残っています。
概ね一度自然に感染すると、
同種のタイプのウイルスに対する免疫が、
2年間程度は維持されるようですが、
そのタイプにより交差免疫が成立するかなど、
免疫の詳細は分かっていません。
ウイルスの蛋白質には8種類がありますが、
その役割もまだ不明の点が多いのです。
ただ、ノロウイルスの形を維持している、
キャプシド蛋白質VP1というものがあり、
このRNAを他の組み換えウイルスで発現させると、
あたかもノロウイルスと、
外見的には同じような粒子の構造を、
作ることが出来ることが分かりました。
これをウイルス様中空粒子
(Virus-like particles )と呼んでいます。
略してVLPです。
VLPはウイルスの紛い物です。
中身は空っぽで勿論感染力はありませんが、
表面の構造は維持されているので、
それを身体に反応させると、
身体はそれに対して、
不充分ながら免疫を誘導します。
このVLPを利用して、
多くのノロウイルスの免疫についての、
研究が行なわれています。
さて、このVLPというノロウイルスの偽者粒子が、
ワクチンとして使えるのではないか、
という考え方が生まれました。
ワクチンと同じ形をしていて、
一定の抗原性があるのですから、
これは結構有望なワクチンの材料になりそうです。
そこで今回の文献では、
このVLPに免疫増強剤のアジュバントを添加したものを、
経鼻ワクチンとして使用し、
その人間に対する効果を検討しています。
何故鼻の粘膜のワクチンにしたかと言えば、
ノロウイルスは小腸の粘膜に感染し、
粘膜の免疫系を誘導するので、
粘膜に接種するタイプのワクチンでないと、
その有効性は望めないからです。
口から投与すれば、
胃液などの消化液で分解され、
あまり有効な効果を示しません。
従って、鼻の粘膜に接種して、
鼻の粘膜での免疫を誘導しよう、
という発想になったのです。
昨日お話したように、
血液型の抗原が非分泌型の人では、
ノロウイルスの感染が起こり難いので、
遺伝子の検査を行なって、
予め非分泌型でない人を選択し、
98名の被験者の半数にはワクチンを接種し、
残りの半数には偽の点鼻だけを行ない、
免疫が誘導されたと思われる、
2回の接種後3週間のタイミングで、
VLPと共通の抗原性を持つノロウイルスを、
被験者に飲んでもらい、
その後の腸炎などの発症に、
差がないかどうかを検討したのです。
要するにノロウイルスを飲ませて、
ワクチンの予防効果を検証したもので、
ちょっと日本では絶対に出来ないタイプの、
相当ラジカルな人体実験です。
その結果…
ワクチン接種者の7割で、
免疫誘導の指標となる、
血液の特異的IgA抗体が検出されました。
そして胃腸炎は未接種者で69%が発症したのに対して、
ワクチン接種者では37%に抑制されました。
つまり、一定の予防効果が確認されたのです。
この予防効果は、
まだとても臨床には、
すぐ応用出来るレベルのものではありません。
実際に流行しているノロウイルスの感染を予防したのではなく、
同じ抗原性を持つウイルスに対する、
あくまで人工的な予防効果を見たものだからです。
その効果も、
確かに免疫誘導はありますが、
アジュバントを使用した割には、
自然免疫に比較しても、
かなり弱いレベルのものに留まっています。
論文の中にも書かれているように、
使用したアジュバント自体にも、
単独で若干の感染防御効果があるので、
それを勘案すると、
よりVLP単独の抗原性は弱いものに思えるのです。
しかし、今後のワクチン開発への、
道筋を付けた意味では意義のあるもので、
おそらくはこのVLPをベースにした、
ワクチンの開発が今後進んでゆくものと考えられます。
ロタウイルスには弱毒生ワクチンが、
日本でも使用が開始されていますが、
これはロタウイルスの構造が、
より明らかになっているからです。
ノロウイルスの構造にはまだ不明の点が多く、
その時点で生ワクチンを開発することは、
予期せぬ副反応のリスクを伴うのです。
このように、
非常に似通った症状を呈するウイルスではありますが、
ノロウイルスとロタウイルスとは、
その構造の面でも性質の面でも、
異なる点の方が多く、
その予防や治療においても、
別個の考え方が必要となるような気がします。
今日は開発途上のノロウイルスワクチンの話でした。
それでは今日このくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
この記事へのコメント
死にそうな目にあったので、ワクチン開発のニュースに
諸手を挙げて喜んでましたが、まだまだ道のりは長そうですね。
同社が2価の筋注ワクチンも開発中との記事があって、
調べてみた時に3児のパパの野呂サンがノロウィルスというネーミングで迷惑を被り、憤慨しているとの記事を見ました。
名前が同じだからって、ごちゃごちゃ行って来る輩がいるんですね。
馬鹿みたい。
野呂さんもいい迷惑ですね。
コメントありがとうございます。
筋注のワクチンは原理的に難しい気がするのですが、
ちょっと不思議です。
臨床試験に入っている、というような報道もありますが、
今回の論文などを読む限りは、
とてもまだ一般に使用するような、
段階のものではないように思えます。