ホールボディカウンターの測定値を読む
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は少し自由時間があれば良いな、
という感じです。
それでは今日の話題です。
最近複数の方から、
ホールボディカウンターという、
放射線の内部被曝の測定装置の測定値について、
ご質問を頂きました。
ネットにも、
実際に測定された方の数値が、
幾つか紹介されています。
そこで今日はその点について、
僕の理解の及ぶ範囲で、
整理をしておきたいと思います。
明らかに誤りと思われる解釈が語られていたり、
検査はしたものの結果の意味が分からず、
却って不安に駆られている、
というような意見を多く聞きましたので、
そうした方のご不安を、
少しでも軽減する一助になれば、
と思い記載をさせて頂きます。
もとより僕はこうした機器の専門家ではありませんので、
これまでに収集した情報を元に、
僕の理解の範囲で正しいと思えることだけを書くつもりですが、
誤りがあるかも知れません。
何かありましたら「優しく」ご指摘頂ければ幸いです。
①ドイツで測定をされた成人の事例
ドイツに行かれて測定をされた成人男性の方の計測値です。
診療所で実際にご質問を受けた数人の方のうち、
ブログに記載することをご了解頂いた方です。
福島県に滞在し、
6月の初旬に検査を受けられています。
カリウム40 3290ベクレル 誤差範囲32%
セシウム137 637.5ベクレル 誤差範囲27%
セシウム134 588.6ベクレル 誤差範囲29%
ヨード131 未検出
この方の体重は正確ではありませんが、
概ね55キロくらいです。
まず、ポイントはカリウム40の測定値です。
皆さんご存知のように、
放射性カリウムは自然に存在する放射性物質で、
概ね体重1キロ当たり60ベクレルが検出されます。
原発から放出された核種には含まれていませんから、
この数値はどんな状態であっても、
ほぼ一定に保たれている訳です。
従って、この数値が予測とかけ離れたものであれば、
その測定は当てにならない不正確なものだ、
ということになります。
この方の場合、3290ベクレルが検出されていて、
体重当たり59.8ベクレルですから、
この測定は信頼の置けるものだ、
ということが分かります。
次にセシウムの測定についてです。
放射性セシウムは、
原則としては自然放射線として存在しない核種です。
つまり、検出されること自体が、
異常値である、という言い方が出来ます。
ただ、その測定の精度の問題がありますから、
そのカウント数が少ない場合には、
その評価は微妙なものになり、
尿中のセシウムの測定などと、
組み合わせて考える必要があります。
また米ソなどの核実験により飛散したセシウムが、
原発事故とは無関係に検出される可能性もあります。
この方の場合検査機関においては、
20ベクレル以下の測定値には、
信頼性はない、という説明を受けているそうです。
原発から放出された放射性セシウムは、
主にセシウム134とセシウム137によるものです。
IAEAに対する日本政府の報告書によると、
福島原発から放出されたセシウムの試算値は、
セシウム134がトータルで1.8×10の16乗ベクレルで、
セシウム137が1.5×10の16乗ベクレルです。
つまりほぼ均等でやや134が多いのです。
内部被曝においてこの比率が、
大きく異なることはないでしょうから、
事故当初の被曝であれば、
概ね同量のセシウムが体内に入り、
時間が経つにつれて、
半減期の短い134の方が先に減衰するので、
その比率が少なくなると想定されます。
体外への排泄に、
134と137とで差があるとは思えないからです。
ここで最初のデータを見て頂きますと、
134の方がやや少なめで、
その点では理屈に合っています。
次に被曝量の解釈ですが、
体重を55キロで換算して、
1キロ当たりセシウム137が11.6ベクレルということになります。
長崎大病院という、
人によって色々な評価のある施設で、
福島からの避難者を測定したデータが報道されていて、
これによるとセシウム137を体重1キロ当たり、
平均で12.5ベクレル検出し、
そのコメントは「予想の範囲内」というものでした。
この結果と上記の方はほぼ同等の被曝量です。
ベラルーシの研究機関から、
チェルノブイリ被曝後の状況について、
多くの報告が論文となっていますが、
そこでの測定値は、
概ね体重1キロ当たり5ベクレル以下が問題なしで、
中等度の被曝地域で平均30ベクレル程度、
高度の汚染地域で平均122ベクレル程度という記載があります。
お子さんの場合15~20ベクレル以上は注意が必要で、
大人では50ベクレル以上が注意が必要、
という記載もあります。
勿論これは事故後相当年数が経った時期の話で、
事故からほどない時期には、
7000ベクレル以上が計測されています。
この基準で考えますと、
この方の被曝量は、
成人では一応許容範囲のもの、
と考えることが出来ます。
②ネットで公開されている東京在住の成人の方の事例
北海道の医療機関で測定したとされるデータが、
ネットで公開されています。
カリウム40 計測された体内量;16554±70203.6ベクレル
計算による体内量;5580±4464.0ベクレル
セシウム137 摂取量;868.5±11561.1ベクレル
セシウム134 摂取量;6373±33747.0ベクレル
まず数値の誤差範囲が、
異常に大きいことが分かります。
最初のドイツの事例では検査値の3割程度であるのに、
測定値より誤差の方が、
遥かに大きな値になっています。
カリウム40の測定値が、
本来は6000ベクレル程度でないといけないのに、
実際に計測された数値はその3倍近いという、
とんでもないものになっています。
更にはセシウム134の数値が、
137とそれほどの差はないか、
137より低くないといけないのに、
137の7倍以上という、
これも途方もないおかしな数値になっています。
当該の医療機関に問い合わせた訳ではありませんが、
セシウムの数値を見るだけでも、
この数値の信頼性は極めて低く、
あまり実際の被曝量の参考には、
ならないもののように思われます。
③福島県で測定された30代の男性の事例
これは行政の絡みで測定された数値を、
ご本人が公開されたもののようで、
これもネットで公開されていたものです。
測定日時は6月22日の記載があります。
セシウム137 残留放射能;693ベクレル
誤差;±546
摂取放射能;2890ベクレル
カリウム40 残留放射能;4560ベクレル
誤差;±5330
これも最初のドイツの測定に比較すると、
誤差範囲の非常に大きなものだと思います。
ただ、2番目の事例のような、
極端な誤差ではありません。
カリウムの数値は妥当なもので、
それなりの信頼性のあることが分かります。
体重の記載はありませんが、
カリウムの数値から推測すると76キロ程度で、
それで換算すると、
セシウム137の被曝量は体重1キロ当たり9.1で、
成人であれば許容範囲の被曝であることが分かります。
摂取放射線量という表現は、
3月12日に被曝したと仮定すると、
その後の体外への排泄から計算して、
当初は2890ベクレルの被曝があったと推定される、
という意味です。
3ヶ月後にそのうちの693ベクレルが残留している、
という推定です。
ただ、これは3月12日に1回きりの被曝をした、
という想定ですから、
東海村の臨界事故での被曝、
というような場合にはそれで良いのですが、
今回のような事例では、
即その数字に意味がある、
ということは出来ません。
④埼玉県在住の男性の事例
これはネットに矢張り記載のあったもので、
埼玉県と東京でしか生活はしておらず、
長崎大学で測定を受けたところ、
セシウム134が24.4ベクレル検出された、
という事例です。
この数値は詳細が不明なのですが、
体重1キロ当たりの計測値とすれば、
一定量の被曝を受けているのですから、
その旨の説明を受けていると考えられ、
そうではないというところから判断すると、
全身のカウントから割り出された数値と考えられます。
トータルの数値が24.4ベクレルであるとすると、
これは検出限界ギリギリくらいの数値であり、
その計測値にはあまり内部被曝の測定としての、
意味は薄いのではないかと思われます。
セシウム134のみが検出された、と言う点も、
通常は考え難い結果のように思われます。
ホールボディカウンターによる計測は、
決して万能のものではなく、
概ねセシウムとヨードから放出される、
γ線の測定にしか使用されていません。
しかもその計測は、
測定条件や機器により、
かなりの変動があり、
その精度管理も不充分です。
ただ、その測定が勿論無意味ということはなく、
特にセシウム137がある程度のレベル以上検出されれば、
ホールボディカウンターでは検出困難なものも含めて、
どの程度の内部被曝が起こっているかの、
1つの傍証にはなるものなのです。
今日はホールボディカウンターの数値についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は少し自由時間があれば良いな、
という感じです。
それでは今日の話題です。
最近複数の方から、
ホールボディカウンターという、
放射線の内部被曝の測定装置の測定値について、
ご質問を頂きました。
ネットにも、
実際に測定された方の数値が、
幾つか紹介されています。
そこで今日はその点について、
僕の理解の及ぶ範囲で、
整理をしておきたいと思います。
明らかに誤りと思われる解釈が語られていたり、
検査はしたものの結果の意味が分からず、
却って不安に駆られている、
というような意見を多く聞きましたので、
そうした方のご不安を、
少しでも軽減する一助になれば、
と思い記載をさせて頂きます。
もとより僕はこうした機器の専門家ではありませんので、
これまでに収集した情報を元に、
僕の理解の範囲で正しいと思えることだけを書くつもりですが、
誤りがあるかも知れません。
何かありましたら「優しく」ご指摘頂ければ幸いです。
①ドイツで測定をされた成人の事例
ドイツに行かれて測定をされた成人男性の方の計測値です。
診療所で実際にご質問を受けた数人の方のうち、
ブログに記載することをご了解頂いた方です。
福島県に滞在し、
6月の初旬に検査を受けられています。
カリウム40 3290ベクレル 誤差範囲32%
セシウム137 637.5ベクレル 誤差範囲27%
セシウム134 588.6ベクレル 誤差範囲29%
ヨード131 未検出
この方の体重は正確ではありませんが、
概ね55キロくらいです。
まず、ポイントはカリウム40の測定値です。
皆さんご存知のように、
放射性カリウムは自然に存在する放射性物質で、
概ね体重1キロ当たり60ベクレルが検出されます。
原発から放出された核種には含まれていませんから、
この数値はどんな状態であっても、
ほぼ一定に保たれている訳です。
従って、この数値が予測とかけ離れたものであれば、
その測定は当てにならない不正確なものだ、
ということになります。
この方の場合、3290ベクレルが検出されていて、
体重当たり59.8ベクレルですから、
この測定は信頼の置けるものだ、
ということが分かります。
次にセシウムの測定についてです。
放射性セシウムは、
原則としては自然放射線として存在しない核種です。
つまり、検出されること自体が、
異常値である、という言い方が出来ます。
ただ、その測定の精度の問題がありますから、
そのカウント数が少ない場合には、
その評価は微妙なものになり、
尿中のセシウムの測定などと、
組み合わせて考える必要があります。
また米ソなどの核実験により飛散したセシウムが、
原発事故とは無関係に検出される可能性もあります。
この方の場合検査機関においては、
20ベクレル以下の測定値には、
信頼性はない、という説明を受けているそうです。
原発から放出された放射性セシウムは、
主にセシウム134とセシウム137によるものです。
IAEAに対する日本政府の報告書によると、
福島原発から放出されたセシウムの試算値は、
セシウム134がトータルで1.8×10の16乗ベクレルで、
セシウム137が1.5×10の16乗ベクレルです。
つまりほぼ均等でやや134が多いのです。
内部被曝においてこの比率が、
大きく異なることはないでしょうから、
事故当初の被曝であれば、
概ね同量のセシウムが体内に入り、
時間が経つにつれて、
半減期の短い134の方が先に減衰するので、
その比率が少なくなると想定されます。
体外への排泄に、
134と137とで差があるとは思えないからです。
ここで最初のデータを見て頂きますと、
134の方がやや少なめで、
その点では理屈に合っています。
次に被曝量の解釈ですが、
体重を55キロで換算して、
1キロ当たりセシウム137が11.6ベクレルということになります。
長崎大病院という、
人によって色々な評価のある施設で、
福島からの避難者を測定したデータが報道されていて、
これによるとセシウム137を体重1キロ当たり、
平均で12.5ベクレル検出し、
そのコメントは「予想の範囲内」というものでした。
この結果と上記の方はほぼ同等の被曝量です。
ベラルーシの研究機関から、
チェルノブイリ被曝後の状況について、
多くの報告が論文となっていますが、
そこでの測定値は、
概ね体重1キロ当たり5ベクレル以下が問題なしで、
中等度の被曝地域で平均30ベクレル程度、
高度の汚染地域で平均122ベクレル程度という記載があります。
お子さんの場合15~20ベクレル以上は注意が必要で、
大人では50ベクレル以上が注意が必要、
という記載もあります。
勿論これは事故後相当年数が経った時期の話で、
事故からほどない時期には、
7000ベクレル以上が計測されています。
この基準で考えますと、
この方の被曝量は、
成人では一応許容範囲のもの、
と考えることが出来ます。
②ネットで公開されている東京在住の成人の方の事例
北海道の医療機関で測定したとされるデータが、
ネットで公開されています。
カリウム40 計測された体内量;16554±70203.6ベクレル
計算による体内量;5580±4464.0ベクレル
セシウム137 摂取量;868.5±11561.1ベクレル
セシウム134 摂取量;6373±33747.0ベクレル
まず数値の誤差範囲が、
異常に大きいことが分かります。
最初のドイツの事例では検査値の3割程度であるのに、
測定値より誤差の方が、
遥かに大きな値になっています。
カリウム40の測定値が、
本来は6000ベクレル程度でないといけないのに、
実際に計測された数値はその3倍近いという、
とんでもないものになっています。
更にはセシウム134の数値が、
137とそれほどの差はないか、
137より低くないといけないのに、
137の7倍以上という、
これも途方もないおかしな数値になっています。
当該の医療機関に問い合わせた訳ではありませんが、
セシウムの数値を見るだけでも、
この数値の信頼性は極めて低く、
あまり実際の被曝量の参考には、
ならないもののように思われます。
③福島県で測定された30代の男性の事例
これは行政の絡みで測定された数値を、
ご本人が公開されたもののようで、
これもネットで公開されていたものです。
測定日時は6月22日の記載があります。
セシウム137 残留放射能;693ベクレル
誤差;±546
摂取放射能;2890ベクレル
カリウム40 残留放射能;4560ベクレル
誤差;±5330
これも最初のドイツの測定に比較すると、
誤差範囲の非常に大きなものだと思います。
ただ、2番目の事例のような、
極端な誤差ではありません。
カリウムの数値は妥当なもので、
それなりの信頼性のあることが分かります。
体重の記載はありませんが、
カリウムの数値から推測すると76キロ程度で、
それで換算すると、
セシウム137の被曝量は体重1キロ当たり9.1で、
成人であれば許容範囲の被曝であることが分かります。
摂取放射線量という表現は、
3月12日に被曝したと仮定すると、
その後の体外への排泄から計算して、
当初は2890ベクレルの被曝があったと推定される、
という意味です。
3ヶ月後にそのうちの693ベクレルが残留している、
という推定です。
ただ、これは3月12日に1回きりの被曝をした、
という想定ですから、
東海村の臨界事故での被曝、
というような場合にはそれで良いのですが、
今回のような事例では、
即その数字に意味がある、
ということは出来ません。
④埼玉県在住の男性の事例
これはネットに矢張り記載のあったもので、
埼玉県と東京でしか生活はしておらず、
長崎大学で測定を受けたところ、
セシウム134が24.4ベクレル検出された、
という事例です。
この数値は詳細が不明なのですが、
体重1キロ当たりの計測値とすれば、
一定量の被曝を受けているのですから、
その旨の説明を受けていると考えられ、
そうではないというところから判断すると、
全身のカウントから割り出された数値と考えられます。
トータルの数値が24.4ベクレルであるとすると、
これは検出限界ギリギリくらいの数値であり、
その計測値にはあまり内部被曝の測定としての、
意味は薄いのではないかと思われます。
セシウム134のみが検出された、と言う点も、
通常は考え難い結果のように思われます。
ホールボディカウンターによる計測は、
決して万能のものではなく、
概ねセシウムとヨードから放出される、
γ線の測定にしか使用されていません。
しかもその計測は、
測定条件や機器により、
かなりの変動があり、
その精度管理も不充分です。
ただ、その測定が勿論無意味ということはなく、
特にセシウム137がある程度のレベル以上検出されれば、
ホールボディカウンターでは検出困難なものも含めて、
どの程度の内部被曝が起こっているかの、
1つの傍証にはなるものなのです。
今日はホールボディカウンターの数値についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
この記事へのコメント
被曝量の計測の正確性はともかくとして、
本来であれば検出されるはずのないセシウムが検出されている時点で、やはり異常事態だと僕は思います。
被曝なんてするもんじゃないんですから。
この数値だから問題ないとか、世間は平気でそのような事を言っていますが、そういう事じゃないんだと思います。
体内に微量とはいえ、放射線を放出する核種が存在している。
そして、その半減期は膨大なものであり、一生つきあっていかないといけない。
子供達はそれに怯え、小学生が
「お母さん、私は長生きできるの?」
「子供を産めるのかな?」
なんて事を言っている現実が、おかしいんです。
すみません。
先生の検証にケチをつけてるわけじゃないんです。
変な誤解を与えたらすみません。
でも、やっぱりどうしても今の現状が異常で、それにみんな慣れるのではなく気づいてほしい、切に思います。
コメントありがとうございます。
僕も個人的にはつつさんと同じ意見です。
被曝は少しだから我慢しろ、
というような性質のものではないと思います。
我が家は柏のとある地域に住んでいて、先日、隣の8歳の女の子がホールボディーカウンターを受けたところ、セシウムが体重1キロ当たり7ベクレル、検出されてしまいました。
同い年の息子と5歳の娘を持つ身としては、それを聞いてショックでなりません。ここは、場所によっては福島県より放射能が高いのです。
皆が仲の良い大好きな土地を、離れなくてはならないのかの深刻に悩んでいます。家も売れるかわからないのに……
とりあえず、信頼できそうな期間を探してWBCを受けるつもりです。
受けたら最後、引っ越しかな……
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。