セレンの補充療法と橋本病の話
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日は微量元素のセレンと、
甲状腺の病気との関連についての話です。
セレンというのは、
身体に必要な微量元素の1つで、
ニンニクやネギ、ニラ、ウドなど、
アクのある苦い野菜に多く含まれています。
人間の身体に取り込まれたセレンは、
セレノシステインというアミノ酸に変換され、
主に蛋白質の中に取り込まれた形で存在しています。
これをセレノプロテインと呼んでいます。
現在分かっているだけで、
このセレノプロテインは25種類も存在します。
そして、その蛋白質のうち半数を占めているのが、
セレノプロテインPです。
血液中のセレンのうち、
6割はこのセレノプロテインPに含まれている、
と報告されています。
セレノプロテインPは抗酸化物質であるセレンを、
全身に運ぶトラックのような働きをしていると共に、
その蛋白質自体も、多くの生理活性作用を持っています。
セレンは古くから、
ビタミンEに似た物質と考えられてきました。
実際、セレンの欠乏した状態で、
少量のセレンを投与すると、
ビタミンEの活性は高まる、というデータがあるように、
両者はある程度共同して、
体内の酸化を防ぐ働きをしているのです。
セレンの推奨摂取量は、
男性で1日30μg、女性で25μg程度ですが、
日本人の平均摂取量は100~150μgと言われていて、
日本人で通常の食生活をしていて、
セレンの欠乏が生じることは、
殆どないと考えられています。
セレノプロテインには25種類がありますが、
その中で興味深いものの1つは、
甲状腺ホルモンから、
ヨードを引き抜く役割を持つ酵素が、
その中に数種類含まれていることです。
これに関連して、
セレンの補充療法が、
橋本病などの自己免疫に係わる甲状腺の病気を、
改善させる効果があるのでは、
という内容の論文が幾つか発表されています。
そのうちの1つの論文では、
橋本病の患者さんに1日80μgのセレンを1年間補充したところ、
甲状腺機能の変化は見られないけれど、
橋本病の原因である抗ペルオキシダーゼ抗体の値が、
1年後には補充しない患者さんに比較して、
有意に低下し、
46例中5例では陰性化した、
と書かれています。
例数は少ないので評価は微妙ですが、
同様の文献は他にも複数あり、
また今月のNew England Journal of Medicine誌には、
バセドウ病の眼突
(目が飛び出して物が二重に見えたりする症状ですね)が、
軽症のものに限ってはセレンの補充により改善した、
という文献が掲載されています。
セレンの使用量は1日200μgです。
バセドウ病も自己免疫の甲状腺の病気ですから、
矢張り自己免疫の甲状腺疾患に対して、
何らかの影響をセレンが持っている、
と言うことは間違いがなさそうです。
New England…の文献では、
そのメカニズムは抗酸化作用にあるのではないか、
という推測です。
一方で最初の論文では、
セレンとヨードの両者の欠乏が、
甲状腺の細胞に対して障害作用がある、
という仮説と、
セレンの免疫調整作用がそのメカニズムとして、
推測されています。
セレンを適切に補充することは、
身体の免疫や酸化還元のバランスを、
調整する働きがあると考えられます。
前立腺癌の予防効果がある程度認められた、
という報告もあり、
癌化のプロセスにもある程度の関連はありそうです。
糖尿病については、
以前ご紹介しましたように、
糖尿病でセレノプロテインPが過剰に発現している、
という報告があり、
糖尿病ではむしろセレンの過剰状態にある、
という考え方もあります。
セレンは1日400μg以上では、
末梢神経障害や皮膚炎、脱毛、爪の異常、
などの中毒症状を来たす可能性があり、
その意味で過剰摂取にも注意が必要な栄養素です。
安易な補充は危険ですが、
1日80μg程度の補充療法は、
特に甲状腺疾患などでは、
慎重に試みる価値はあると思います。
今日は微量元素のセレンと、
特に甲状腺との関連についての話でした。
最後に簡単に抗酸化物質の総論を言えば、
ビタミンCとコエンザイムQ10は、
比較的大量に摂っても大きな問題の生じる可能性は低く、
セレンとビタミンEは蓄積性がある上に、
バランスが重要な物質で、
他の抗酸化物質が不足していると、
むしろ酸化を進めるような悪影響も考えられます。
従って、サプリメントもバランスの問題であり、
特定のサプリメントの大量の使用は、
危険性も大きい、と言う点には注意が必要だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日は微量元素のセレンと、
甲状腺の病気との関連についての話です。
セレンというのは、
身体に必要な微量元素の1つで、
ニンニクやネギ、ニラ、ウドなど、
アクのある苦い野菜に多く含まれています。
人間の身体に取り込まれたセレンは、
セレノシステインというアミノ酸に変換され、
主に蛋白質の中に取り込まれた形で存在しています。
これをセレノプロテインと呼んでいます。
現在分かっているだけで、
このセレノプロテインは25種類も存在します。
そして、その蛋白質のうち半数を占めているのが、
セレノプロテインPです。
血液中のセレンのうち、
6割はこのセレノプロテインPに含まれている、
と報告されています。
セレノプロテインPは抗酸化物質であるセレンを、
全身に運ぶトラックのような働きをしていると共に、
その蛋白質自体も、多くの生理活性作用を持っています。
セレンは古くから、
ビタミンEに似た物質と考えられてきました。
実際、セレンの欠乏した状態で、
少量のセレンを投与すると、
ビタミンEの活性は高まる、というデータがあるように、
両者はある程度共同して、
体内の酸化を防ぐ働きをしているのです。
セレンの推奨摂取量は、
男性で1日30μg、女性で25μg程度ですが、
日本人の平均摂取量は100~150μgと言われていて、
日本人で通常の食生活をしていて、
セレンの欠乏が生じることは、
殆どないと考えられています。
セレノプロテインには25種類がありますが、
その中で興味深いものの1つは、
甲状腺ホルモンから、
ヨードを引き抜く役割を持つ酵素が、
その中に数種類含まれていることです。
これに関連して、
セレンの補充療法が、
橋本病などの自己免疫に係わる甲状腺の病気を、
改善させる効果があるのでは、
という内容の論文が幾つか発表されています。
そのうちの1つの論文では、
橋本病の患者さんに1日80μgのセレンを1年間補充したところ、
甲状腺機能の変化は見られないけれど、
橋本病の原因である抗ペルオキシダーゼ抗体の値が、
1年後には補充しない患者さんに比較して、
有意に低下し、
46例中5例では陰性化した、
と書かれています。
例数は少ないので評価は微妙ですが、
同様の文献は他にも複数あり、
また今月のNew England Journal of Medicine誌には、
バセドウ病の眼突
(目が飛び出して物が二重に見えたりする症状ですね)が、
軽症のものに限ってはセレンの補充により改善した、
という文献が掲載されています。
セレンの使用量は1日200μgです。
バセドウ病も自己免疫の甲状腺の病気ですから、
矢張り自己免疫の甲状腺疾患に対して、
何らかの影響をセレンが持っている、
と言うことは間違いがなさそうです。
New England…の文献では、
そのメカニズムは抗酸化作用にあるのではないか、
という推測です。
一方で最初の論文では、
セレンとヨードの両者の欠乏が、
甲状腺の細胞に対して障害作用がある、
という仮説と、
セレンの免疫調整作用がそのメカニズムとして、
推測されています。
セレンを適切に補充することは、
身体の免疫や酸化還元のバランスを、
調整する働きがあると考えられます。
前立腺癌の予防効果がある程度認められた、
という報告もあり、
癌化のプロセスにもある程度の関連はありそうです。
糖尿病については、
以前ご紹介しましたように、
糖尿病でセレノプロテインPが過剰に発現している、
という報告があり、
糖尿病ではむしろセレンの過剰状態にある、
という考え方もあります。
セレンは1日400μg以上では、
末梢神経障害や皮膚炎、脱毛、爪の異常、
などの中毒症状を来たす可能性があり、
その意味で過剰摂取にも注意が必要な栄養素です。
安易な補充は危険ですが、
1日80μg程度の補充療法は、
特に甲状腺疾患などでは、
慎重に試みる価値はあると思います。
今日は微量元素のセレンと、
特に甲状腺との関連についての話でした。
最後に簡単に抗酸化物質の総論を言えば、
ビタミンCとコエンザイムQ10は、
比較的大量に摂っても大きな問題の生じる可能性は低く、
セレンとビタミンEは蓄積性がある上に、
バランスが重要な物質で、
他の抗酸化物質が不足していると、
むしろ酸化を進めるような悪影響も考えられます。
従って、サプリメントもバランスの問題であり、
特定のサプリメントの大量の使用は、
危険性も大きい、と言う点には注意が必要だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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